−2008−
怒りのバレンタイン



 半月以上も経ってから、キラはネチネチとした愚痴の電話を、ウンザリする気持ちで聞き続けていた。ちょっと話がある、と言われてからもう1時間半。まだ続いている。

「約束しただろ?」
「したよ!」

「ずっと待ってたんだぞ」
「それはそっちの勝手でしょ!大体何で持って行かなきゃなんないのさ」


「お前の立場ならそうすべきだ」

「ってか!良く偉そうにそんなことが言えるね君は!」



「人生かかってるんだ!怒るのは当たり前だろう」
「とにかく!僕はちゃんと送ったし、わざわざ今さらやり直すことないと思うんだよね!」
「送ったらマネージャーが全部一緒くたにして、配るんだ」


「そ ん な こ と 知 る か ぁ !!!」


「なぁ、本気で協力してくれよ。その為のお前なんだから」
「お前お前言うな!僕にはちゃんと名前がある!!!」

「知ってるよ!じゃ、キラ!今度はヘマしないからなっ。待ってろよ」


 ガチャン!ツー…ツー…ツー…。

 かかってきたのもイキナリなら、切るのもイキナリだった。さすがにこの雰囲気でリダイヤルを押す気にもなれず、キラはふて腐れてベッドに寝転がる。
 この後昼から大学で講義があるが、行く気にもなれなかった。


(今日、フケる)





「いっつもそっちの都合ばかり押しつけて!勝手すぎるんだよ、あなたは」

 去年の大学祭の時、わざわざ自分を呼びつけて短期間で良いから契約恋愛をしてくれと言ってきた。しかも何故キラだったのかというと、高校の時同期だったから。たったそれだけの理由だった。恐らく名簿か何かから探してきたのだろう。


「勝手な男なんて大嫌いだ…」



 ベッドの上でブツブツ呟く。最初は面倒くさいからと断る気満々だったのだが、相手の懇願とちょっとだけ容姿に折れて渋々疑似恋愛をOKした。
 相手の名はアスラン・ザラ。今人気急上昇中の写真家だが、そんなことオタクなキラには判るわけがない。

 ある程度説明を受けて、暇つぶしでグッズ代が儲かるならと思って受けただけだった。



 話によると、最近ミーアとか言う人が自分にまとわりついて困るのだという。だからキラと付き合っていることにして、周囲にそう見えたら彼女も諦めるかも知れない。
 とりあえず2月の14日にバレンタインとしてチョコレートが欲しい。それが1ヶ月前に電話で受けたお願いだった。


「持って行ったって送ったって一緒じゃないか」

 キラはそう思う。

 しかし、アスランは送られるチョコの数がハンパではなくて、いつも段ボール箱にまとめては福祉施設に寄付しているという。たぶんキラの送ったチョコも、子供たちの胃の中に入っているのだろう。


「じゃ、別にそれでもいいじゃん…」

 キラは別にアスランのファンとかいう訳ではなし、どうでも良かった。約束は守った(つもりだ)し、捨てられるとかそんなもったいないことにはならなかったのだから、後のことは知らない。
 受け取らなかったとしても、有効活用さえしてくれてると判ればそんなに頓着しない質だった。



「そんなに怒んなくてもいいじゃん…」


 別に話を持ちかけられる前に付き合っていた人がいるわけでもなかった。むしろアスランが初めてだ。
 契約恋愛とはいえ初めて付き合った人に、初っぱなからこうも怒鳴られると、全てが面倒くさくなってしまう。彼氏が欲しい、が口癖のフレイの気持ちはますます判らない。



「こんな怒られるんだったら、要らないよ」

 今になってこの契約が嫌になってきた。でもしばらくの間、という短期間の条件だったし、バイト料もちゃっかり先に頂いている。潤った財布をいきなり木枯らしにしたくないのは、人間としての当然の感情だった。



 そのうちなんだか嫌な予感がしてきた。キラは一瞬でも忘れたくてうつぶせになって寝込んだ。




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言い訳v:設定はアスラン写真家、キラ学生です。前の駄文の更新とかなり時間が空きました。さすがに細かい設定忘れかけてました^^;

次回予告:時に押しつけられる要らないもの

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