another
4'th stage 中編1
ズカズカと遠くから音がする。騒ぎの予兆を聞いた人々の視線が入り口に集まった。その男は入り口ドアを遠慮なく開け、怒濤の勢いでカウンターに向かい…拍子抜けした。 「アレ?キラ………は?」 キラが居るはずのカウンターに座っている司書から指摘される。 「今はいませんけど…」 「でも…平日昼間だろ?」 「休憩で席を外しているので」 キラの不在を聞いてアスランはあからさまにうなだれた。 「ヤマトさんに用があるなら伝言でも承りますけど。本の貸し出し、返却なら今私が承ります」 「いや、違うんだ。個人的な用事で……」 気が付くとアスランの周りに人だかりができていた。キラに会っているときには気にもしないが、そういえば自分は芸能人だったとやっと思い出す。目をらんらんと輝かせる人だかりに、アスランは少し向こうに行こうか、と誘う。 集団は素直に図書館の端に移動していった。 「ごめん。サインなら受け付けられないから。ホントは書いてあげたいけど、腱鞘炎になっちゃうよ」 自分の思惑もあって、このくらいの人数ならと握手で我慢してもらった。 (キラと、こうして手とか握って歩きたいのに…) 「こんなところで会えるなんて。幸せですっ」 「いつもドラマ見てます。本物も格好いいです」 などと(アスランにとっては)どうでもいいようなことを散々言われ、ようやく本題に入った。 「キラのことなんだけど…」 「あ、TV見ました。やっぱりキラと付き合ってるんですか?」 「一生懸命モーションかけてるんだけどね。今のとこ玉砕中」 そう言うと、ああ〜そうだろうね、と一様に答えが返ってきた。 「………というかさぁ、キラ…仕事とか大丈夫?」 会っても会っても、何度電話してもしばらくしたらコテッと忘れてしまうあの記憶力で。 けれど人々の反応は違った。 「え?キラが大事なこと忘れたことありました?」 不思議そうな表情で返される言葉。キラを知る人々からの絶対の信頼感にアスランの頭はますます混乱した。 「キラ、記憶力だけは抜群ですよ!」 「え…?でも俺………いつも……」 忘れられてる。それはもう完っ璧に。何度か会って、キラはそんなに演技とか小細工とか言うことは苦手そうだということも知っている。 周りの人々はう〜〜〜んと首をひねり、そしてある結論にたどり着いた。 「あの、失礼ですけど、ここで本を借りられたことがありましたか?」 唐突に変えられる話題。それに一瞬アスランは付いていけなかった。 「本なんか借りたこと無い。大体キラに告りに来たんだし」 「たぶん、原因はそれです」 意味が、全く理解できなかった。 「……………はぁ?」 ああ、そうそうと頷きあう人々の反応。いきなりそんなこと言われてもチンプンカンプンだ。 「キラの記憶の仕方はね、ちょっとこう…極端なんですよ」 「仕事とか、家族とか日常…そういう大事なことはパーフェクトに覚えてるんです。だからここの図書館の返却率良いし。けど、それが遊びとか余暇とか…とにかくキラが重要じゃないと判断したらまるでダメですよね〜」 「ああ、そうそう。飲み会とかね」 「どうでもいいことはキレイに覚えてないですよ」 …で、結局。 「とにかく覚えてもらうんだったら何でもいいから本を借りられる方が早いと思います」 「キラ、仕事のことなら絶対忘れないからねぇ」 「忘れるからと言って電話番号でも教えておいたら返却日の2日前には必ず電話かけてくれますよ」 「…………………」 呆然と話を聞いている間にキラが帰ってきた。人だかりを見つけてキラが寄ってくる。 「キラーっ!!!」 叫んで彼女の肩を鷲掴みにしたが予想通りの答えが返ってきた。 「ぇ?え……っと、ぉ?どこかで、お会いしましたっけ?」 彼女はやっぱり忘れていた。 中編2へ→ いいわけ:さすがのモテモテ男も大苦戦(笑)キラの記憶の仕方はまるでTVの初期設定のようです(苦笑) 次回予告:お互いに「会いたかった」と、いい雰囲気になるんですが、思惑は全く違います。 |
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