契約恋愛another

5'th stage 中編2


 キラは目に見えるほど真っ赤になった。恥ずかしいということはよく解っている。

「あんな大事な思い出、絶対に忘れちゃだめだよ」

 ピキュゥゥウウウン!
 そしてまた一つキラの頭にスイッチが入った。


「僕……あなたと……」
「中で話そうか」

「…はい」


 そしてキラは簡単に男を部屋の中に入れた。





 その頃、タリアはなりふり構わずアスランを捜していた。きっとカガリも必死になって捜しているだろうから、彼女よりも先にアスランを確保しなければならない。
 事務所とカガリが両方で捜索活動をしているものだからもう、マスコミにはかぎつけられている。一部では動いているという情報も入ってきていた。急がなければならない。

 事務所の電話、自分の携帯、マネージャーの携帯…ありとあらゆる可能性のあるところからアスランの携帯電話に電話をかけ、そしてちゃっかり着信拒否にされていることに舌打ちする。
 こういうときはほぼ必ずと言っていいほど、そのときのお目当ての彼女と逢い引き中だ。



「もう…遅いでしょうね……」

 焦りが見え始めたとき、やっと彼の携帯に拒否がかかってないナンバーを見つけた。メイリン・ホークのナンバーだった。

 その突然の携帯の着信音に一番驚いたのはアスランだった。
「設定してたはずなのに…」

 キラに会うためあらかじめ可能性のありそうなうるさどころは全て拒否にしてあるはずだった。目の前のキラが席を外そうとしたが、行かなくていいと止めた。
「疲れてるだろ?もう少し俺の胸の中で休んでて」

 その優しい口調が意味するところは、一つしかない。気だるげなキラが自分の胸のうちで男を見上げながらこくんと可愛らしく頷く。男にとって至福の瞬間だ。



「??」

 ディスプレイの表示は確かにメイリン。今の彼女のスケジュールを思い出し、水着写真撮影で何かトラブルでもあったかなと思った。
「んー?メイリン、どしたの?カメラマンにセクハラでもされた?」


 ところが電話の相手はアスランが思う声とは違っていた。
「残念でした。事務所のグラディスよ」

 アスランに額に青筋が走る。



「また事務所の権威を振りかざして携帯を使ったな!」
「あら?この緊急事態にそんなこと言ってられるかしら?あなたにとっては甘い時間かもしれないけど、あなたの周りはそんなあなたを放っておいてはくれないということよ」

「あ〜〜回りくどい言い方じゃ全然判んないんだけど………」

 そうだ、それでなくても今はキラとの一番いい時間。邪魔されたくないのは誰しも同じなはずだ。


「今テレビつけたら何やってると思う?業界人として」
「何かテキトーなモンやってるんじゃないの?」

「はい不正解。ワ・イ・ド・ショ・ーよ、朝の」

 そう、それは世の主婦向けの芸能ネタを主軸とした総合情報番組だ。つまりスキャンダルを起こせばほぼ間違いなく格好の餌食としてお世話になりまくっている、あの番組。



「……………で?」

「ここまで言われて判らないかしら?この色ボケ頭は!近くにテレビぐらいあるでしょ。自分で確認して今自分の置かれた立場を自覚しなさい」

「あー……」
 面倒くさそうにアスランは言う。事実面倒くさい。そして一番いい時間を邪魔されて機嫌が一気に急降下した。

「今は安易に動かないで。そしてまた連絡するから、くれぐれも携帯の拒否設定を元に戻すこと!いいわね!!!」
 電話口で怒鳴られ、アスランは不機嫌をあらわにしながら肯定する。たったそれだけのことも、面倒くさいと言わんばかりに。タリアの怒鳴り声を最後に電話は切れた。


「そんなにうるさく言わなくったっていいのに…」
 ブツブツ文句を言っていると、間近でタリアの声が聞こえていたのだろう。キラが心配顔をしてアスランを見上げていた。


「ザラさん……」

 大丈夫と言いながらキラをきゅっと抱きしめる。布団の中で上がりきったままの体温がまだ逃げていない。軽くくちづけるとキラの頬はまた少し赤みを帯びた。

「覚えて。覚えて。俺に触れられること、こうして愛されること、君をこんなにも好きだということ…」
「ザラさん…」

「俺を君の一番大事な存在にして」

 アスランは無意識にキラのスイッチをここぞとばかり押しまくった。


「うん…判った」

 今までほとんど関心のなかった<恋愛>や<男性>に関するカテゴリーが、キラの脳内の中でウェイトを上げ、その中にアスランが刻み込まれる。キラの輝く瞳の本当の意味を知らないまま、男はくすっと笑った。



 その直後。今度は部屋の固定電話が着信を告げる。早速キラは発信者を確認してカガリからだ…とつぶやいた。とたんにアスランが小さく舌打ちしたが、彼女は運良く電話に集中して耳に入っていなかったようだ。


 ……………で、そのカガリからの焦りまくった電話の内容はと言うと、
<今すぐどの局でもいいからテレビをつけろ!あ、民放だぞ。公共放送はつけなくていい>

「何?」
 アスランが優しく問う。


「カガリがね、とにかくテレビ付けろって…。意味わかんないんだけど…」
「んー?そういや口うるさい俺の上司もそんなこと言ってたなぁ。二人で見る?」

 キラは一も二もなく頷いた。そしてつけたテレビは衝撃的な内容を二人に突きつける。



<で、注目の冬ドラなんですが!今回もなんと言ってもアスラン・ザラの出演する番組!これに期待が集まってます。ま…アスラン・ザラと言えば恋多きプレイボーイで有名なことはご存じの通りなんですが、その恋の行方も気になるところですよねぇ>

 そう。アスランの撮影が終了したばかりなのだ。ワイドショーでは人気俳優出演のドラマの見所紹介と、それにかこつけた噂談義が花咲いていた。


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いいわけ:うん、ごめん。必ず邪魔が入るのもギャグサイトの宿命〜♪
次回予告:何も解っちゃぁいないのは実はアスランなんです。次回でラストです。

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