契約恋愛another

5'th stage 後編


 スタジオには何枚か女性芸能人の写真がパネルに引き伸ばされて、ご丁寧に並べてある。その中の一枚。カガリのショックはそこから来ている。写真ではなく簡単な絵がありその下にK・Yさんとイニシャルがあったからだ。

「あれ、キラのことだよ」


「えっ?」
「大本命はキラなのにね。みんな知らないから」
 相変わらずアスランはテレビを指さしてしれっと言う。


<……今、一番熱愛が噂されているのがこのK・Yさんというのです!そこで、当番組が独自に………>


 再びカガリから着信がかかった。
「キラ逃げろ!囲まれるぞっ」
「え???何の話?」

「というかお前今まで何してたんだ!テレビ見てびっくりして…でも携帯全然つながらなくて…心配して……」
 という姉の心配にキラはのんきに自分の携帯をパカッと開いた。

「あ…ごめん、電池切れ…」
 携帯電話の電源は電池切れで落ちていた。


「今から行くからっ待ってろッ」
「えっ!ちょ……カガリ………?」

 けれどもこの姉はやはりキラの返答を待たずして通話を切った。超行動派の姉は今頃すでに部屋を飛び出しているに違いない。走り出したらカガリはつかまらない。

「もぉ〜〜〜」

「お姉さんはキラが可愛くて仕方ないんだね。俺は君が愛しくて仕方ないよ」


 こんな時でもドンぴしゃでアスランはくさいことを言う。ところが恋愛にすれていないキラにはぴたりと効いた。
「僕も……ザラさんが好きです」
「名前で呼んで。もっと俺に近づいて」

「アス…ラン……?」

 彼の名を口にするとキラの頬が薄ピンク色に染まった。アスランはソファにもたれたままキラを肩ごと引き寄せ、愛しげにささやく。

「何があっても、君を守るからね」
「………ぅん…」
 キラも意味があまりよく判っていないままうなづいた。


 次の瞬間、キラの部屋のドアが大音量をたてて開いたのだった。ちなみにその瞬間アスランは何をしていたかというと、しっかり愛しい彼女の唇を深く深く奪っている最中だった。でもって、その光景はすぐに追いついてきた取材陣のカメラの中に小さく収まってしまう。

「アスラン!話があるわッ」


 そこにいたのはタリア・グラディス。タリアは猛スピードで玄関ドアと鍵を閉め、二人のそばにずんずんやってきた。いつものことと、アスランはキラを離さないまま片手をヒラヒラ振る。後にしてくれ、と言うのだ。



「今回ばかりはそうはいかないわ!あなたと彼女にとって一生のうちで一番大事な話を聞いてもらいます」
 するとアスランではなくキラが反応した。
「あの……っ?失礼ですけどあなたは?」

 さすがに話にならないのでタリアはアスランの頭を、持っていた雑誌で渾身の力を込めて引っぱたき、彼を一時的に沈黙させた。


「初めまして。私はタリア・グラディスといいます。アスランの所属芸能事務所の社長をしています」
 キラはカガリが言ったようにきょとんとしていた。

「さっきもテレビに出ていましたが、彼はそんなに有名な方なんですか?」

 瞬間、タリアは引いた。
 まさか知らないとは思わない。普通ならば。だが彼女の目の前にいるこのほわほわした女性は一見して何も知らないように見えた。



「腕と顔はいいのに浮気性で悪名高いうちの俳優よ。もちろん事務所の問題児」

 アスランは相変わらず苦笑いをしている。それでも腕はちゃっかりキラを抱き込んでいる。

「キラさんね。悪いけど色々調べさせてもらったわ。時間がないので単刀直入に言うけど、あなたの彼に対する気持ちは本物?恋愛感情として…」
「はい、好きですよ」
 キラは思ったままを口にした。

「気持ちは、変わらないのね?」
 タリアの言うことはいまいちよくわからないが、それも今の気持ちに変わりはなかったのでキラは再び肯定した。
「良かった、キラ。俺も大好き。愛してるよ、キラ」

 ばこん!
 タリアの雑誌が再び落ちてくる。

「あなたには聞いてません」


「グラディスさん…???」
「ヤマト嬢、あなたがアスランを本気で好きだというなら、彼との交際を許します。けれど、少しだけあなたにも有名になってもらわなければなりません。それでも?」
 キラはやはりあまり意味がわからず即答した。

「アスランはとてもまじめでいい人ですよ。嫌いになるはずはありません」

 タリアは一瞬頭を捻ったが一言、<判りました>と告げ閉めた玄関ドアを開いた。


 そこにはカメラとマイクを持った取材陣がおびただしい人数張り付いていた。ドアが開いたとたん怒濤のように降ってくる質問をタリアは一蹴しキラと視線を合わせる。まもなくカガリが追いつき、人の輪に加わったところで、静かにキラにお願いした。



「キラ・ヤマト嬢、今からとても大事な事を言うわ。アスランの事が好きなら、あなたは彼と結婚するべきです。そしてこれからは仕事以外でアスランが愛を口説く相手はあなただけにさせてちょうだい」

 事務所社長の口から堂々と出てきた<結婚>の二文字に呆然としている人たちに気づくことなくキラはタリアに聞き返す。事態に気づいたカガリが止めようとしたが、自然と取材陣に阻まれ一歩も歩みを進めることはできなかった。



「それって大事なことなんですか?僕の一生を左右するほど?」

「アスランが生涯愛する女性はあなただけにさせること。人生の最優先事項よ」


「グラディスさん……」
「それが結婚でしょう?それでもあなたはアスランが好きかしら?」

「……はい」



 キラの横で嬉しそうに笑うアスランを見て、キラはますます確信した。
「キラ、俺だけを愛して。俺もキラだけを愛するから…」

「それ…も、重要?」


「とても大事なことだよ」

 いつものように深く考えずに口説き文句を言ったアスラン。その瞬間、キラにとんでもないスイッチが入った!


「うん、判った。じゃぁ、僕以外の女の人にこういう軽々しいことを言うのは全くだめなんだよね。一度だって許さないからねw」





 その後アスランの酷い女グセは治ったとか、あのアスランが結婚後とんでもない恐妻家になったとか。色々話題になるが、真相は誰も知らない……………。(完)


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いいわけ:長らくお待たせしてすみません。お読みいただきありがとうございました。この後アスランに余計なことを吹き込まれる前に、タリアやカガリによるキラの記憶矯正計画が発動したことは間違いありません。

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