契約恋愛another

5'th stage 前編


 秋も深まった頃。カガリは激怒していた。

 そりゃ当然、
<目の中に入れても痛くないほど可愛い自慢の妹が、あの女癖の悪さで異常に有名な人気俳優アスラン・ザラと本気で熱愛している>
ということが、当の妹の部屋で発覚したからだった。



 一国の大臣の娘であるカガリは、幼い頃に養子に出されたキラとあまり頻繁に会える関係ではなかった。しかし折に触れて電話やメールなどで地道に連絡を取り続けてはいた…つもりだった。


 今回も久しぶりに時間が空いたのでお忍びで彼女の下宿に遊びに行った。そこで見つけた衝撃の真実。あまりのショックにカガリもその日のことは半分も覚えていない。

 まず、玄関で最初に見つけたのが<いかがわしい隠し撮り写真>だった。それが何と可愛らしい犬の額縁に入れられて堂々と飾ってあるではないか。

 隠し撮り写真とは一見分からないように、上手にパソコンで修正してあるものの、到底通常カップルが撮る写真などではない。いわゆるベッドシーン………つまり、真っ裸で二人がキスをしている写真。もちろん一方はキラでもう一方はTV等でよく見かける(カガリにとっては)要注意マークの俳優アスラン・ザラだ。



 そんな写真、どう考えてもこの純真な妹が撮ることを了承するはずはない。それが何で愛する愛する妹の部屋に堂々と飾ってあるのか!

 当然カガリの意識はそちらに集中する。
「キ…キキキッ」

「……樹…?」
 相変わらずな妹の天然ボケを軽くスルーし、カガリは早速本題に入った。



「キラッ!この…このヤラしい写真は何だぁッ!!!」

「え?なにが?ヤラしい写真なんかあるわけないよ」
 いや、パッと見、確実にいやらしい。気づかないキラもキラだ。そんなある意味天然記念物の妹の顔をギッとにらむ。


「ヤラしいだろ!コレ。何でこんなものがここにあるんだ!」

 キラの答えは明快だった。
「そんなことないよ!それ、とても大事なんだから」


 その瞬間、カガリの頭が5分ほどブラックアウトした。キラから聞いた衝撃の単語。それは<大事>。



「…………ッ!!!騙されているんだキラ!コイツが誰だか知っているんだろう」

「うん。勤務先で良く本を借りてくれるいい人だよ」
 キラはきょとんとしている。まぁ、考えてみればいつものことだ。この妹、確かに頭は良いものの、記憶力の発揮の仕方が通常とはかけ離れている。

「ちっがーうう!そんな一般人じゃない!浮気者で女泣かせで悪名高いあのアスラン・ザラなんだぞ!」


 けれども今のキラには届かない。アスランのことを愛しているから…ではない。キラの記憶の中のアスランが<仕事に関すること>だからだ。

「カガリ?途中どこかで頭でも打った?彼はいい人だよ。とても本が好きな人なんだけど、 お仕事が忙しい人なんだ。でも返却日前に電話をして取りに行けば必ず返してくれるんだよ」



 カガリのこめかみに青筋が増えた。


「……………キラ今何と言った?」
「だからー、お仕事がとても忙しい人なんだよ」

「違う。聞いてるのはそこじゃない」
「???彼はとっても本が好きで、まじめな人だよ。何の問題もないじゃない!」



 カガリの嫌〜〜〜な予感は当たりそうだった。いや、確実に当たっている間違いない。

「仕事、忙しいからって、取りに行くって言ったよな」
「それが何か?」

 相変わらず、この妹はきょこんと首を傾げている。
「まさかっまさかまさかまさかとは思うが、アイツの部屋に行った………とか言うんじゃ……」
 アブないったらありゃしない。アスランの情報を脳裏に浮かべ、次に目の前ののほほんとしている妹を見る。いかにシミュレートしても、カガリの頭で警告する天の声は<手遅れ>だった。



 そして起こるべくして爆撃は起こった。

「行かなきゃどうやって返却できるの?」


 次の瞬間、キラの目の前からカガリの姿はなくなった。
「あれ?カガリ?もぉ〜。せっかく久しぶりに会えるって言ってたのに…」

 テーブルの上に置かれた食べかけのケーキ。もったいないからとキラはついでに自分のお腹に入れた。ちなみにその後、何度か姉の携帯に電話をかけたが、カガリは一向に出てはくれなかった。いつものことだ。





 その日中にカガリの足は、ダッシュでアスランの所属する芸能事務所へと向いた。目的はもちろん、アスランと直談判し、キラの側に近寄らないように懲らしめるためだ。

 あんな悪虫に大事な妹の側をうろちょろさせておくわけにはいかない。絶対にだ!



 事務所の受付で一悶着起こし(半分以上は激高している本人のせいだったが)、アスランには会えなかったが社長であるタリアに会えたのがその日の夜のことだった。

「アスハ大臣のお嬢様が一介の芸能事務所に、何のご用かしら」

 初対面、タリアは非常に警戒していた。受付辺りで何かもめていたのは知っていたがそれがまさか自分の所にお鉢が回ってくるとは思ってはいなかった。しかも、その相手がアスハ大臣の娘と聞かされたときには飛び上がった。



「アスラン・ザラとど〜〜〜しても連絡が取りたい」

「アスランは今はドラマの撮影中なので、例えあなたといえどもお取り次ぎは出来ないわ。また彼が訳の分からないことを言ってあなたに言い寄ったのかも知れないけど、よた話とお思いになって忘れて頂けると嬉しいのだけど」


 ここまで散々待たされたカガリだ。回りくどい腹のさぐり合いをする気にはなれなかった。もちろん彼女の性にも合わない。


「私ではない。私の妹にまとわりつくのを止めさせたいからここに来たんだ!」


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いいわけ:カガリはやっぱりいい子です。双子最高!あ、途中使った「きょこん」という表現は秋山の造語ですので、実際には使えませんw
次回予告:カガリの事情、タリアの事情、アスランの事情、そして世間の関心。波は否応なく彼らを巻き込んでゆく。

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