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1'st stage 前編
自分の後ろで怒号が飛び交うのが聞こえていた。それでも、立ち止まるわけには行かなかった。今ここで捕まってしまっては、間違いなく「餌食」だ。 細い身体と長身を活かし、路地を抜け、垣根を越え………たどり着いた行き止まり。 「行き止まり!!?」 焦燥がアスランの中を突風のように抜ける。だが、引き返すわけには行かない。そこにはただ自分だけを待ち構える人、ヒト、ひと……。 意を決して潜り込んだドアの中は、外界の喧噪などどこ吹く風。一面にびっしり並べられた書籍や辞書に目が見開いたまま、言葉にならなかった。 「本屋………でも、ないな…」 それにしては、静かすぎた。 「まさか異世界……ってことは?」 いや違う。相変わらずドアの外では捜せ、などという声が聞こえている。ホッとすると同時に、後悔もした。 「腹減った…」 逃げることに専念して、朝から何も食べていない。かすかに聞こえるドアの外の様子では、到底出て行かれそうになかった。 「クソ………あの女…っ」 忌々しいと思うが、その彼女に連絡をすることもできない。たぶん、張られているだろうから。ここで夜を明かす以外なさそうだと覚悟したら、途端に眠気が襲ってきた。 気が付いたら身体を揺り動かす感覚に、強制的に目を覚まされる。 「ぅわ!紫っ」 「……ぇ?」 「あ、いやすまない。寝ぼけてて…」 すると目の前の女性はくすくすと笑って見せた。 「…だろうね。でも良かった。酔っぱらってなくて」 「酔っぱらい?」 「ええ。ここに緊急非常口のドアあるでしょ?ここからよく酔いつぶれたおじさんが入ってくることがあるんです」 ぷっ−と吹き出したのはアスランだった。 少し余裕がでて周りをきょろきょろと見回し、すぐに身体が固まった。彼の目の前には今までの人生で全く縁のなかった知識がごろごろ転がっていた。その衝撃と言ったら………おそらく普通の人には理解出来ないだろう。 「もう閉館なんで、お帰りいただかないと困るんですが…」 目の前の女性は言う。 「閉館?建物が?」 「ここ、図書館ですよ。市立の」 「あ……あぁ、それで………その、こういう本が………」 「資料として借りに来られるんですよ」 その女性は、とんでもないタイトルの本を目の前にしてただひたすら柔和に微笑んでいた。 『貞操帯の歴史』 『中世ヨーロッパ−戦争と女性の悲劇−』 『いかにして人々は女性を護ってきたか』 「そ…そ、ぅ」 「そんなことより、ここ鍵を閉めちゃったら明日の朝まで空きませんよ。本を読みに来られるんでしたら、また明日お願いします」 その女性は帰りの道を指し示す。しかし、アスランには理由があった。 「帰れないんだ…」 「そう言われても……規則ですし」 「俺、今…追われてて」 やはりというか彼女はびっくりした。 「な…なっ何やったんですかっ!泥棒?放火?それとも……」 誤解は仕方のないことだ。 「情報屋。俺から情報を聞き出そうと、朝から追われてる…」 女性はホッと胸をなで下ろした。 「よかった。あなた、ヒトゴロシじゃなかったんですね」 「おいおいっ!人聞きの悪い!!!」 「ごめんなさい。だってもしそうだったら恐いじゃないですか」 「ごめんね…。だから…部屋にも帰れなくて」 「でも本当にここ、もうすぐ締めてしまうんです」 その時アスランはふと思いついた。 「後で弁償するから、変装とかさせてくれないか」 「え…?」 「このままじゃ、いずれバレる…」 「でも…部屋にも帰れないんでしょう?」 畜生、とアスランは思った。部屋も、間違いなく張られている。しばらくして彼女が笑いかけてきた。 「僕に名案があるんです。任せてくれませんか?」 ここは、彼女に従う以外に方法はなかった。 後編へ→ いいわけ:2007バレンタイン企画です。以前の契約恋愛とは話が違います。アスランは相変わらず芸能人設定ですが、今回のキラは司書さん。 次回予告:今回のアスランは今までより断然女癖を悪くする予定。前編の受け身がどこへやら。積極的に迫るザラさん(笑) |