冬の新ドラ編・前編
「さぁ!遠慮は要りませんわ。思い切ってアスランに飛び込んでいってくださいまし」 「勢いよく!そんなへっぴり腰ではなく、がばっと!」 「ら…ラクス………さん?」 「ぶちゅ〜〜〜っと行っちゃってよろしいのですよ」 などと言われたところで、そうそうできる訳じゃない。だいたいこういう事は、二人っきりが良いのであって、他人に要求されてやるものじゃない。間違いなく。 目の前には燕尾服を着こなしたアスラン。 自分は一生着ないようなドレス姿。 でもってラクスが先ほどからしきりにああ言っている。 そんな二人からおよそ50pのところには、スタッフの人が業務用のテレビカメラを構えている。周囲を見回すと大勢のスタッフ、スタッフ、スタッフ。 そう、彼らの全ての視線が自分たちに注がれている。 そんな状況で、彼の胸へ飛び込めとか、キスをしてくださいとか言われても、できるわけがない。 いやそもそも、何でこんなハメになっているのかというと。 それは10月半ばのことだった。いつものように自宅に帰ると、高そうなパンプスが玄関にあって。ああ、母さんにお客様が来ているのだと思い、邪魔をしないようにそっと自室に向かおうとした。 その瞬間、僕は捕まった。 扉ががちゃっと開く音がして、誰かにぶつかられたと思ったら、力一杯抱きしめられていて。 その人の胸に顔がすっぽりはまって…苦しくてじたばたもがいていたら声がした。 「キラ…」 はて? どこかで聞き覚えが〜〜〜なんて騒ぎじゃなかった。 「ラクスさん!!?」 「はぃっv」 はいv………じゃないです。ラクスさん。 「あの…」 「はいっv」 「その…胸が………」 ああ〜〜。ラクスさんって…ラクスさんの胸って………テレビで見るのと同じくらい羨ましいサイズ…じゃないっじゃない! こんな時にナニ考えてるんだ僕は! 「ぁあ〜!可愛らしいですわ〜キラぁv」 などと言い、彼女は身を二度三度くねくねさせてからやっと僕を解放してくれた。 え?なんだって? ということは、アレですよ。 僕の顔の真上でね、彼女の胸がむにゅむにゅと………。そこんとこ…女の子同士だから、良いのかな? 結局着替えもせずに、リビングのソファに座ると早速ラクスさんが飛んでもないお願いをしてきた。それがこれだ。 要するに、ドラマのための別撮りをお願いv 「アスラン…またドラマやるんですか?」 そんな話、知らなかった。 「といってもまだ企画段階ですので、詳しいことはこれからなんですが…」 ホッとしかけると、ラクスは僕をどん底に突き落とした。 「前に放映したカガリとのドラマのレーティングがよかったので、続編を作ることになりそうなんです。噂でそのことを聞きまして、わたくし制作会社の社長さんとお話をしましたのよ」 嫌な予感がした。 「ま…まさか………その話ってもう既に…?」 「はぃッ!絶対成功しますと、社長さんと意気投合いたしました」 やっぱり〜〜〜〜〜〜〜っ! これがマンガか何かなら滝のような汗が出ている感じだ。 「やっぱり…そう言うシーンだけ僕とアスランとで別撮りするんですか?」 「あのシーンは社長さんも大好きだとか言ってらっしゃいましたわね…」 ギャァァアアア〜〜〜〜〜ッ!キタ…ついにキタ……。 これはもう、お願いとかいう可愛いレベルではなかった。いうなれば「決定事項」でもって僕は「強制連行」だ。 不安がる母さんを実質的に脅さないうちに、僕は慌ててその話を受けた。 そのまま放っておくとラクスの口から「アスランとの濃いベッドシーン」とかいう言葉が出てきそうで怖かった。 10月も終わりになろうかという頃、「撮影」のため、僕は久しぶりに事務所を訪れ、簡単な挨拶をすまし………予想通りアスランに控え室に引きずり込まれた。 すぐに抗議の言葉は彼の唇によって阻止されてしまう。力が抜け、真っ赤に染まった僕の顔をアスランはしばらく微笑みながら眺めていた。 「ごめんねキラ。こんなことになって」 謝る彼。判らないでもない。先に話をすると絶対に反対されるだろうと、アスランに内緒で準備された話らしい。 気がついたらホームページに予告まで出ていて。お父さんのパトリックさんまでもが共謀に荷担していたらしい。 無論アスランも激怒したらしいけど、既に後の祭りで。 「僕も…全然知らなかった」 「だろうね。キラはHPは?」 「見てないよ。だって、頑張って受験するからって、見たくもない参考書開いてた」 「ありがとう。学校は絶対一緒のところに行こうよ」 「でもアスランこんな撮影とかしてたら、勉強する時間がなくなっちゃうね…」 「大丈夫。もうこんな事にならないように、色々と小細工しておくことにするよ」 そう言う彼の目はあさっての方向に向かってやけに暗く光っていた。 「だから、キラの撮影は今日だけで全て終わらせるようにラクスを脅しておいたから」 「それなんだけど……大丈夫かなぁ?もう前みたいな盗撮とかじゃないことは判ってるけど、どんなことするんだろう……」 不安がった僕に、アスランは近くにおいていた台本を見せてくれた。 「分厚いね…」 アスラン専用の台本。そこにいくつか付箋が貼られていた。 「ここ。今日、キラと撮るところ」 何カ所かあって、日付も場所も違う設定だ。そこのところを僕とアスランで先に撮って、こないだみたくカガリさんと差し替える予定らしい。 どんなことするんだろう、と思いながらパラパラとページをめくる。 ページ数が進むたびに僕の顔から血の気が引いた。 「ふ…っ、ふり向いて…駆け寄って……だ………抱きつく!!?」 「そして少し見つめ合って、キスするんだ…」 「う……うっとり見つめるとか何とか、説明書きがあるんですけど?」 恥ずかしくなって慌ててページを進ませる。 「………………………」 「ベッドシーンなんかもあるよ。大したもんじゃないけど…」 「お…ぉ………おっ押し倒される……って!ってぇッ!半裸!?」 「指を絡めて、押し倒して…やっぱり俺は君に口づける………」 僕は気を失いそうだった。 「コレ…コレ……コレっ!ほんのり甘酸っぱい青春ラブコメって、聞いたんですけど〜」 誰に? もちろんラクスにだ。 「一応これが、どれも夢の中のシーンであるっていうのが、救いかな?」 そう言う設定にしないと、後でややこしい問題になるらしい。無理矢理スキャンダルに仕立て上げたいワイドショーが飛びつく話だろう。 「今さら……断れない………よね?」 「それは断れないよ。というより、俺が断りたくない」 「何で!」 「判るだろう?こんな内容のシーン、俺とカガリで撮れるわけないじゃないか」 つまりカガリはガチガチに固まったままであって。 アスランはあからさまに拒絶反応を示すわけであって。 たかが夢のシーンとは言っても、撮れないことには意味がない。 「でも…でもっ」 「その点キラなら安心なんだ。演技でなくたって笑っていられるし…それに」 アスランがキラを引き寄せる。唇を深く重ねられていると自覚するまで時間はかからなかった。 もう、キラも慣れてきていて、スッと身体から強ばりが抜け、手が自然に彼にすがった。 「キラになら、いくらでもできる」 「じ…自信満々で言わないでよぉ……」 「でも、キラとのこんな姿、本当は誰にだって見せたくないから撮りは早く上げようね」 などという楽屋での会話が今となっては恨めしかった。 撮影現場でもアスランはその気だし、やたら積極的だった。表情もいいものが撮れてると、監督さんが太鼓判を押したほどだ。 それに引き替え僕は………。 「キラ、表情は考えなくて良いのですよ。だから…もっと思い切って飛び込んでくださいまし。こんなことは本当にアスランといい仲であるあなたにしか頼めないのですから」 ラクスにヘンに励まされる。 体型は驚くほどカガリさんと似ているらしい。だから、顔だけ彼女と差し替えて放送できる。 しかも、夢のシーンと言うことで、かなりのソフト・フィルターがかかるらしい。 「本放送では、ぼんやりと…シルエットくらいにしか見えないように編集するんです。キラの身体も、カガリの顔も」 「ラクスさん……」 だから、僕とアスランとのラブシーンなんてものを台本に入れたんだ。カガリさんとのシーンと言うことで違和感がしない程度に。 カガリさんも、アスランとのラブシーンは苦手だって言ってた。 だったら…本当に、こんなこと僕しかいないのかな……? 後編へ→ いいわけv:本当に言い訳〜。アス誕がすっこ抜けておりました。あ〜今まで誕生日毎にやってきたのにな〜。でも〜ま…いっか。時間がたってしまえばわからないや←そぉいう問題ではない(笑) 壁紙は同系統のビルダー素材を使ってしまったので、自作。 次回予告:キラ、女優に初挑戦?ますますアスランのことを好きになるキラ。 |
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