契約恋愛

冬の新ドラ編・後編

「その…かなりぼんやり見えるようにするんですよね?」



「それはもちろんです。わたくしが責任を持ちますわ」

「こういう事って………その、僕しかできないって……」

「はい!キラだけが頼りですの」


「カガリ…さんは、それで……いいって言ってるんですよね?」

「カガリにはできませんもの。それに、この間プライベートでアスランに振られたと言って泣いてましたし」



「カガリさんが……」


 ああ、僕がアスランと別れられないように、カガリさんもアスランのこと好きだったんだ。それをラクスの口から知らされた。

 そしてアスランが彼女の申し出を断ったこと。


 要するに、僕を選んでくれたこと…?

 ちょっと、うぬぼれても良いのかな、と思った。





「頑張りますから」


 気を取り直して、僕はカメラの前でスタンバイしてるアスランのもとに歩いていった。


「キラ?大丈夫か?どうしてもできなさそうだったら……」

 アスランが心配して小声で話しかけてくる。

 さっきの今でそんなに大丈夫というわけでもなかったけど、少し気分が楽だった。こんな時でも、彼は僕のことだけを心配してくれる。そう判ると、安心できそうだった。





−アスランはキラのことだけしか見えていないんです−


 ラクスの言葉は少し痛そうだった。それは、危険なことと裏返しでもあるから。



−あまりに夢中になると、周りが全く見えなくなるので困りものですが−


 でも…今は。今だけは!



−キラの瞳だけを夢中で見つめるアスランは、今現時点においては手放せないんです。そう言う映像が欲しいんです−


 演技をするなら、それは大切なこと。だから…と言ってラクスは優しくキラを抱き込んでくれた。



「わたくしたちも、あなたにとても無理をお願いしてるのは判っているんです。ですが、この間のカガリのことで、アスランは少し苛立っていて……」


 他の人など眼中になかった。けれどもそこへカガリが割り込んできた。


 キラのことだけ見ていたいアスランにとってそれは、悲しいが邪魔でしかないこと。だから、少し苛立ち、気持ち的に不安定になっていた。


 それを元に戻すのに、わざわざこの台本を書いたと、種明かしをしてくれた。





「今それができるのはキラだけなんです。あなたの力が…助けが欲しいんです」



(いま………できるのは、僕だけ……………)


 キラは言われたことを頭の中でくり返す。

(僕が、助けてあげなきゃ。いま、僕にできること…)



「……から、今度は僕が恩返………」


「え?何?キラ……?」

「ぅうん!何でもない!僕もね、やっぱりアスランのことしか見えてないんだって…思ったから」


「どうしたの?そんな、急に嬉しいこと言っちゃって」

「ぇへ…」


「キラの口から聞けるなんて思ってなかった。ね、これ終わったら、今夜……どぅ?」

 意味深そうな表情をするものだから、そこから先が何となく読めてしまった。



「露骨にヤラしいこと考えてるような人には、何にもしてあげないよっ」

「キラぁ……」


「僕はそんなに安っぽくないし!」



 すると急に耳元に口を寄せて囁かれた。

「知ってるよ。キラは…俺の最高の天使様だから」


 言われた言葉が理解できて初めて、キラは真っ赤になってアスランを突き飛ばした。

 周囲の動揺なんか知るもんか!

 こんなこと言うアスランが悪いんだッ!





「お仕事、しよ?アスラン」

「今ならできそう?」


「僕からのお誕生日プレゼントだと思ってやるから、ちゃんと受け取ってよね」



 アスランは、きょとんとし、そしてやっと自分の誕生日であることを思い出した。

「忘れてたの?」


「思い出した」



 お互いにクスリとほほえみ合った。


 きっと…もう、怖いものなど何もなさそうだった。僕は………アスランがよろけるのも構わずに、彼の胸へ飛び込んでいった。

 最高の笑顔のプレゼント付で。



 その時ばかりは、ラクスや、周りのことなど考えないことにした。





 これが、僕にできる最高の贈り物だから!






 んでもって、一ヶ月後から始まった冬の新作ドラマの第1話。

 ラクスからあらかじめディスクが送られてきたので、だいたい内容は知っていたけどやっぱりテレビで見るアスランは僕の隣にいてくれるあのアスランじゃなかった。



(やっぱ…格好いいなぁ………)





 それはテレビのせい。

 そういう風に仕組まれた台本のせい。


 そして絶妙な編集のせい。



 そんなことは知ってたけど、そう言うことを知らない世間の女の子はこういう彼を見たら好きになってしまうんだろうなと思った。

 ちょっと、夢の中のシーンでカガリさんに差し替えられてる映像に嫉妬したりなんかして。



 家族も一緒に見てたから、顔には出せなくて困っちゃったけど。父さんなんか、「一体どこにお前が出ているんだ?」なんて本気で不思議がっていたけど。







 本当のことなんか教えてあげない。



 だってそれは僕からの誕生日プレゼント。


 大好きな彼だけにあげたもの。

 今それが、誰にも知られないうちにこんな記念品になってる。





(ありがとう、アスラン。僕も、楽しかったよ)


 一言、メールを送って僕は眠りの国の住人になった。


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いいわけv:さて、久しぶりのこのシリーズ、いかがだったでしょうか〜。
アスランが格好いいと思ってるのはここのキラちゃんの感想。秋山の感想は「見てて飽きない人」遠すぎず近すぎない距離で生暖か〜く見守っていたい人であります。きっと、いつも面白い映像が見られそうです(笑)

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