取捨選択編・中編2



 がちゃん!

 ドアの開く音にキラは仰天して、意識を戻し、常人ならありえないグッドタイミングで、自分からアスランをべりっと剥がすことに成功した。



「こ…っ、更衣…室は、部屋の中にあるドアから、隣の準備室に入れますから……」


「え?あ、ああ〜そこのドアかい?」

「はい…そう、で…す」


 入ってきたのはミリアリアだった。キラはほっと内心で安堵のため息を漏らす。


(ふ…フレイでなくてヨカッタ〜〜〜〜〜)



 あわててアスランを突き放し、ミリアリアの元に駆け寄る。


「ごめんね、打ち合わせ中」

「うん、何?」


「ね…もう少し、時間…あるでしょ?…で、キラからコレ……頼めないかな〜〜〜って、思ってぇv」



 ミリアリアの差し出したもの…その腕の中には高さ10cmにはなろうかという色紙の山だった。ちなみにちゃっかりマジックも添えられている。



「何すんの?こんなにたくさん…」


「ばかね!サイン頼めないかってことよ!もう、人数減らすのに大変だったんだから」


 もともと芸能人に興味のなかったキラは面食らう。



「よくわかんないけど、サインってさ、ここに名前とか書いてあるあれでしょ?名前書いた紙貰って…なんか楽しいの?」
←自分もねだったくせに他人になるとピンと来ない。

 ミリアリアの頭があからさまにガクッとうなだれた。


「だめだコリャ…」





 そのとき話の種がキラたちの前に首を突っ込んできた。トップモデルの表情をして。

「どうしたのかな?キラ君…」


「え?ぁ…え〜と……」

 まごつくキラに代わってミリアリアが上目遣いになりながら、お願いにかかる。


「すみません。こんなときに失礼かと思うんですけど、その…サイン、貰えないかなって」



「いいよ。俺もいつもは受けないんだけど、キラ君が担当の友達ってことだからね。時間までもう少しあるし、後でキラ君に預けておけばいい?」





 このときアスランはやけにあっさり、承諾した。そしてミリアリアは何度もお礼を言い、キャーキャーはしゃぎながら部屋を後にする。

 ドアが閉まったとき、キラはついアスランを見上げた。


「いいの?受けちゃって。こんなにたくさんあるよ」



「ね、キラ。俺甘いものが欲しい」

「は?どしたのいきなり?お腹空いてるんだったら、そこにおまんじゅうあるけど…」


「そっちじゃない。こっち!俺の活力源v」

 そしてキラはまたもや不意打ちのディープ・キスを食らってしまう。彼女がいくらじたばたもがこうとも、一向にアスランは抱きしめたその身体を離さなかった。





「いつもながらすっごいおいしいんだよね〜〜〜。キラのお口v」



 そして再び扉にノック。数学のバジルール教諭だった。

「9時になりますので、そろそろご準備をお願いいたします」



 間一髪で開きはしなかったが、心臓に悪いことこの上ない。既にキラの心臓は限界だ。

「こ…こんなところで、ヤラしいこと言わないでよっっ」


「ん〜〜〜?これ以上言ってほしくなかったら、キラがずうっと俺の悪いこの口を塞いでりゃいいんだよv」



 それって…つまり………。ここまでくればさすがに鈍すぎるキラでも、想像が付いてしまう。

 アスランはすべて狙ってそう言っているのだ。





「そんなことよりさ!アスラン、色紙…即答でOKしちゃったんだから、今のうちに書いといてよ」


 ふと視線が山と積まれた色紙に移る。自分が受けたとはいえアスランはげんなりし、しかしすぐに復活してキラの顔を覗き込んだ。


「じゃぁさ、キラ。俺の小さな夢をかなえてくれる?」


「夢?」



「うん。大したことじゃないんだけど…俺にはちょっとした夢だったから」



「こ…ここで僕と初エッチ…とかそういうんじゃなきゃ…」



 ここまで来るとキラの警戒はもっともだった。本当、ちょっと油断してると犯されそうな勢いだったから。


「あ〜ソレもいいなぁv正直萌えるかも〜。スリリングでいいよね。ゼッタイ忘れられない初めてになりそうv」

「やめてくださいソレだけは!忘れられないというより、忘れたい思い出になっちゃうよ」



 いささかブラック気味になったキラに、降ってきたお願いはこんな特殊な状況でなければ、なんと言うことはないものだった。


「じゃぁ〜〜〜ん!実はこんなものを持ってきているんですv」



 それは…プラント大附属高校の制服だった。

「っつーかさ、アスラン帰り車でしょ?いらないでしょ制服…」


「それは…キラと堂々とデートがしたいから!俺は、キラに他の男が近寄るのも耐えられないから。キラにはちゃんと彼氏がいるって事見せ付けて、虫除けしておきたいから」


「虫除け…って……」



 すると目の前にびらっと、複数の手紙をさし出された。

「キラには悪いと思ったんだけど、担当に無理言って持ってきてもらった」


「何ですかそれ?」

「全部キラあてのラブレター。今日だけで3通。こんなの見ると、不安になるから」



「アスラン…いつもすっごい自信屋さんだと思ってたけど」

「キラと離れたくないんだ。あんまりに好きで俺から離れてくのが怖くて…。だから、保険が欲しくて…。……ダメ?」



 キラは思わず腹を抱えて大笑いした。


「そんなこと…全然ないって思ってた。だってすごく熱心にアスラン迫ってくるもんだから、僕も好きになっちゃって…今別れてって言われたら、かなり辛いかもって思うのに…」


「キラ…」

「いいよそれくらい。でもこないだみたく、ちゃんと判んないようにしてくれたらいいよ」





 がちゃ〜ん!

 そしてみたび扉は開く。


「え?何がですか?」


 アスランの担当だった。


 ちなみに担当を説得するのには、かなり時間を要した。当たり前だ。もし途中で、正体がばれたら元も子もない。

 だが、このときばかりはアスランは引かなかった。ねちこく担当を説得にかかる。



 …で、結局、担当にメイクをさせることで一致をみたのだった。昼前、無事公演も終わり、担当にカムフラージュをさせ(車の中に即席人形をソレっぽく置いただけ)、アスラン自身は見事に変身を遂げてキラと手をつなぎ学園祭のギャラリーに加わることになった。





「実はこういうの、楽しみだった」


「え?そうなの?アス「キラぁv」

「…アレックスは、高校の学園祭でたことないの?」

「いろいろ大変でしょ?俺の場合」


「あ、そっか」





 そして、ミリアリアたちと会うべくして会い、アスランはしれっとした表情で初対面のあいさつをした。

 プラント大附属の、アレックス・ディノだと。

 ちなみに幸いなことに、“アレックス”が気になって引きとめようとしたフレイを、ミリアリアが止めたため大事には至らずに済むことになる。





「心臓に悪いよ、アレックス」

「初彼氏だから?でも俺的にはそのまま一生をともにしたいな〜」


「言い過ぎ!僕の気持ち…解ってるくせに……」

 そのとき、自分を呼ぶ声があることに気づき、そして間もなくしてそれはなんとカガリだと二人は知った。


 アスランは内心ドキッとする。正直、今ここでトラブルはごめんだった。



 青緑色の瞳に、さっと緊張が走った。


後編へ→
−−−*−−−*−−−*−−−*−−−*−−−*−−−*−−
言い訳v:経験豊富なアスでも、天然キラには勝てませんて(笑)なんだかんだ言ってキラペース。

次回予告:アスランの取捨選択でラストになります。ちなみに彼の上着のポケットには…。もう、お判りですね(笑)あ〜いうたぐいのものが無造作に入ってます。

 お読みいただきありがとうございました。ブラウザバックでお戻り下さい。