取捨選択編・中編1


 ラクスに怒りをぶちまけて、事務所に帰ると、担当が電話している最中だった。


 どうやら話の内容から察するに、すべて断りの電話のようだ。ここまで来ると、大学の学祭とか、高校の文化祭などちょっとした行事に呼ばれることが多い。

 といってもスケジュールの都合で、すべてに出られるわけじゃないから、実際断らせていただいてる話も数多くあった。





「…はい、はい……はい、ですからすみません。その日はどうしてもスケジュールが合わないものですから…ぁはい、ありがとうございます」

 そう言いつつ、担当は手元のチェックリストに次々に印をつけてゆく。アスランはふと気になって、その用紙を覗き込んだ。


「ぁれ?オーブ高等学院?ここも断るんだ…」

「ぇ?あ、ええ。5月14日は確か秋冬新作で撮影入ってたでしょ」


「でも、こんな時期に文化祭なんて珍しくないか?」

「ああ、面白いんですよここ。10月頃の文化祭なんて、受験生の邪魔をするだけだからって、5月にしてあるんですって。その代わり、3日間開催なんだそうです」



「ふぅ〜ん…、じゃぁ日付を変えるってのは駄目かなぁ…?」


 妙に食らいつくアスランに、担当は不信感を抱きしばらく考えた末、何かに思い当たった。



「この学校だったんですか?ここ、ふっつーの公立高校ですよ?本当なら考えるまでもなく断ってるところなんですが…」

 さもありなん。話題は今アスランが熱を上げている彼女、キラ・ヤマトに関することだった。



「俺にもご褒美が欲しいなぁ〜〜〜!」



 そしていつものアスランのわがままが始まる。おねだりポーズで担当に擦り寄るバカ男。


「………。しょうのない人ですねぇ。判りました。仕方ありません。じゃぁ、15日は雑誌のエッセイの締め切りなんで、最終日の16日で交渉してみます」

「ありがと…「でも!ひとつだけ忠告しておきます。スキャンダルは絶対に勘弁してくださいよ!もしそんなことになったら…」



「ど…どうするって言うんだ!」


「ラクス嬢との婚約のウワサ…流しちゃいますよ」

 その瞬間、アスランの顔が一瞬にして…凍った。


「や…ッ!それだけはやめてくれぇえええっ!!!ってか〜この鬼担当〜〜〜ッ!俺とキラとの儚いひと時まで邪魔をする気かっ!」


「別に邪魔はしませんよぉ。ちゃんとスキャンダル対策をして、きちんと仕事さえこなしていれば〜〜」



「オマエ…よくできた担当だな…」

「んま、レノア様仕込ですからv」





 でもって迎えた文化祭最終日。キラは朝から友達にからかわれ、せっつかれして問題の扉の前までやってきた。


「キラぁ、すごいじゃない!芸能人のマネージャーの人と知り合いだったんだ〜」

「意外な人脈よね〜」

「小さい頃、クラスが一緒だった…かぁ〜私にもいないかな〜そんな人〜〜」



 そんな、簡単な話じゃないよ!と、言うことさえできれば、キラはどんなにか楽なことだったか。

 大体これはどう考えてもアスランの企みだ。キラはアスランの担当とは知り合いでもなんでもない。


 ここのところ、電話さえできなかったから…あのアスランが自分に会いたがってくるのは目に見えていた。でも、まさかこんな形で実現するなんて、全く思っていなくて……。





(お茶が…冷めちゃうね)


 キラには何か理由付けが必要だったのかもしれない。とにかくそういうことにして、部屋に入ると、目の前には早速思い描いた姿があった。



「キラv会いたかった…。ここんとこ、ずっと仕事で…電話もできなくてごめんね」


 アスランは容赦なくキラに近寄り、キラが手にしていたお盆に乗せられたお茶を、次々と近くのテーブルに乗せていく。



「あ…っ、それは…僕が……」

「飲ませてくれるの?嬉し「ち…っ違うよッ」

 最後の砦のように残っていたお盆も、ひょいと取り上げ、遠慮なくキラの腰に腕を回してがっちりと捕まえる。


「俺は…こんなにもキラに会いたかっ「ゥオッホ〜ン!!!」

 二人の横からわざとらしい咳払いが聞こえた。



「あ…」


「アスランの担当の人っ!やだっ見て…たんですか……」



「う〜ん、こんなところに座っているからねぇ。そりゃぁもうバッチリハッキリ!」

 しかし、キラがにわかに慌てたところでもう後の祭りだ。こんな程度の障害で、1週間以上お預け状態のアスランが、容易にあきらめるはずはなかった。





「とにかく離してよ〜〜」

「ん〜〜〜?じゃぁ、今キラが俺にすっげぇ熱いキスしてくれたら考えてもいいよv」


「できるわけないじゃんっ」



「一生懸命なところ悪いんですがアスラン…ここは学校、今午前8時40分。判ってる?」


「判ってるさ!だからこうして頑張って早く来たんだろ!それまでキラは俺が独占するんだ〜!」




 担当から見える光景、ただそれだけを取ってみればそれは、幼い子供の取るに足らないわがままにしか過ぎなかった。

 しかし都合よく担当の携帯電話に着信がかかる。体育教諭のフラガからで、最終打ち合わせをしたいとの事だった。



「いいですか!アスラン、開演は10時からといっても、着替えやスタンバイ考えてくださいよ!あ、そうそう!判ってることと思いますが、二人ともまだ高校生なんだから。その辺をよ〜〜く自覚してくださいね!」


 そう言い捨てて、担当はこの部屋を出て行った。



 視線で担当を追って、すぐに戻したとき、きらりと光ったアスランの目にキラは薄ら寒いものを感じる。


「あぁあぁぁっぁあああのっ!こっから先は…無しだからねっ」


「イ・ヤ・ダ!」



 始まった…。ストッパーがいないもんだからわがまま放題が、どうしても始まる。


「アスラン〜〜」



 ガチャ!扉が再び開き、担当が今一度顔を出す。

「くどいですけど…高校生ですからぁ〜。そぉいうことも本当は無しなんですよ特にアスランッ!」


「うるさいな!もう、さっさと行けよ!」


 バタン。


「や…やっぱり、離してくれる?ここ学校だし、今日アスラン変装してないし…ばれたら、やばいよね?」


「冗談じゃない!ここまで来て!大体キラに会うために、キスのひとつもするために予定入れたのにっ」

 ところがアスランはよけいキラをぎゅっと抱きしめて離さない。


「ソレ本末転倒してるから!」



「俺さぁ…正直なところ、溜まってんの」


「何が?」

 妙なところできょとんとするキラ。


「エロ心…」



 キラは自分の頭上に爆弾でも落とされたかのような気分がした。

「し…っ知らないよっ!」

 首まで真っ赤にして頭を振る。



「仕事して疲れてんのにさぁ、それでも毎朝元気な自分見て思うわけよ…。俺もコイツもキラだけを求めてるんだな〜って」


「恥ずかしいこと言ってないで…離して〜〜〜」

「ヤダ!絶対ヤダ!もう、時間ないし〜とりあえずキスさせてぇ〜〜〜」



 そして…有無を言わせない強さで、アスランの欲望はキラの唇に降ってきた。

 キラが覚えている、あの…訳わかんなくなりそうな口づけ。そしてキラは今再びその感覚に酔っている。


 口の中が彼で満たされたとき、キラはたまらなくなって瞳をぎゅっと閉じた。


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言い訳v:密室。二人きり。若い男女しかも恋人同士……これだけファクターがそろってるにもかかわらず、お笑い路線。普通にオカシイ秋山の思考回路(笑)

次回予告:…となりゃぁ、予想の範囲内の展開vいつも以上に積極的に迫るアスランだったが、ことごとく失敗。何でかって?そりゃぁ…まぁ……ネ?

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