衝撃です!ちるものです!!!


<中編>

 実は賃貸物件に入居すること自体初めてだったらしい。その物件も保証人だ何だの関係で結局母親が候補を絞り、アスランはその中から地図だけ見て決めたという。

 そんなモンだから当然引っ越しは当然<おまかせPACK100>という、ぶっちゃけ丸投げコースを選んだ。


 けれど、ホストという職業柄、勤務時間は主に夜。昼間は寝ていて動けない。更には休みの日でもひっきりなしに電話やメール攻勢が続き、必要最低限の生活に追われ結局ATMに寄ることをすっかり忘れていたらしい。


 そこまで溜まる前は保証人から払ってもらっていたのだが、ある時保証人からチャンスをくれと言われた。
「例え親の名に恥じる恥ずかしい職業とはいえ、あの子も一応は社会人です。次月からちゃんと払わせますから」
と、彼の母親に言われちゃんと話を付けてもらうことを約束した……ハズだった。


 が、仕事に忙しいアスランは判った判ったと言いつつ、すっかり忘れていたらしい。今だって、やっとキラの口から<留守電にも入れたし、はがきも送りましたけど何の返事ももらえませんでした>という事実が判って、本気で恐縮したぐらいだ。



「ア〜ス〜ラ〜ン〜〜〜?今日はアスランは抜けられない急用で、お休みです……という名目で隣の事務室に籠もってください」

「に……ニコル???」
「そしてちゃんと払いましょうね〜5ヶ月分。あと一月滞納したら追い出されますよ?」


 アスランは慌ててニコルに詰め寄った。
「は、払うだけだから!すぐすむから」

 けれどもニコルは悪魔のような笑みを全開にさせながら、アスランを脅迫した。

「うふふ。一晩のうちに彼女の機嫌を取って、無事にご自宅まで送り届けることがアスランの今日の仕事ですよ。裏口、開けておきますからね」

 アスランはちらりとキラの顔を見て、歳は判るかとニコルに聞いた。
「18だそうですよ。未成年です」


 そして話は決まった。今日5ヶ月分支払うからといってアスランはキラを連れ、店の事務所に引っ込む。
 その5分後、店は通常営業を始めた。





 一方、店事務所。

「ち…散らかってて、ごめん」
「いいです。別に。家賃さえ払ってもらえたら今日はもう帰りますから」

「送るから」
「まだ明るいし、大丈夫です。一人で帰れます」

 すげないキラにアスランは頭を下げた。
「ごめん。本当にごめん。今からじゃATM閉まるから、夜間金庫でお金を下ろしてくるから、もう少し待ってて欲しい。その頃には真っ暗になるし、何より大金を持った若い女の子を一人には出来ない」

「ザラさん。本当に今日払ってくれるんですね?」
「今日払うよ。ごめんね、督促状とか不動産からの電話とかも来てたと思うんだけど、多分見てなくて…」

 キラは目の前のひたすらに恐縮するザラさんを見て、今まで予想していた怖い印象を払拭した。彼女にとってホストとは甘い言葉で女性を騙して大金を巻き上げるとんでもない職業だった。
 でも、どんなに人が良くても金払いとなれば別問題だ。



「あ、これ飲んで待ってて」
 目の前に置かれたのは綺麗な色をしたフルーツジュース。キラが見上げると、アルコールは入ってないし、無料だからと言ってアスランはそばにあった適当なカツラをかぶり、事務所の裏口から出ていった。





 アスランが出ていってさらに1時間。そこへ男性が入ってきた。彼は入りざま、名前を名乗った。シン・アスカと。

「あれ?君…えーと」

「今はザラさんの帰りを待ってます」
「ああ!裏に来てるって言ってたすげー可愛い子!」

「あなたまでおだてないでください!」


「おだててなんかないよ。だって表で噂になってて…」

「え?」
 キラはジュースをちびちび飲みながら驚いた。


「受付の、ニコルがコソッと教えてくれたんですよ。アスランさんがオロオロしてる珍しいところが見られるって。あの人がそんなになってるなんて想像できなくて、俺も半信半疑だったんですけどね」

「ぼ…僕は、仕事で来ただけですから」


 するとシンはイタズラ小僧のような視線をキラに向けた。

「ニコルがね、もしかしたらアスランさん…一目惚れかもって、言ってたんですけど今なら俺判りますよ」
「何言ってるんですか!からかわないでくださいっ」


 その瞬間、バタン!と扉が開き、そして勢いよく閉まった。そこに現れた人物は、キラにシンが耳打ちするような状態でフリーズしている姿を見、更にはキラの頬がピンクに染まっていることを確認して逆上した。


「シン!何をしてるんだ!仕事は?彼女はお前の客じゃないんだろう!」

「ぅわ!ホントだ。初めて見た!あ、俺〜仕事に戻りまぁ〜すッ」
 そう言ってシンは超特急で事務所を出ていった。



 後に残されたのは気まずい気持ちのままのキラとアスラン。

「ご…ごめん。君を怒った訳じゃないんだ」

「みなさんからかい上手だから驚いていたんです」


 部屋に二人きりしかいなくなったことを確認し、アスランはキラの前に膝を折る。

「君に、嫌な思いをさせたね…」


 見上げる青緑の瞳に思わずドキッと来た。ぷるぷると首を振る。

「じゃぁ、親御さんに怒られた?こんな歓楽街まで来るんだもんね、こんな時間まで引き止めてごめん」



 キラはそれも違うと言った。

「あの…ザラさん」

「ん?何?」



「いや、なに?じゃないです。とりあえずや・ち・ん!5ヶ月分ですよ!5ヶ月分」

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