恋は衝撃です!堕ちるものです!!!
<前編>
それはとてつもない勇気と、ちょっぴり時間が必要だった。賑やかにネオンきらめく眠らない場所で、キラは厳しい表情を崩さないまま、それでも店の前でガッチンガッチンに固まっていた。 時刻は午後5時。とは言っても開店には少し早い。 「お嬢さん」 近くで客を呼び止める声がする。ココはそんな場所なんだ、と頭を切り換えようとした。 「危ない危ない」 「ぇ?何が?」 「危うく流されるとこだった」 「いいよ。可愛い君になら流されても…」 キラの真後ろで、繰り広げられる女性向けの会話。 「今日こそ。今日こそゼッタイにやり遂げてみせるんだから」 「うんうん。その意気その意気。とにかく中入って座って話そ?」 「………。え???」 振り向くとキラの真後ろで他の客に甘い言葉を吐いていたはずの優男は、ガッチリキラの両肩を捕まえていた。 「ちょと!何してるんですかッ」 優男は、キラの反応にちょっと驚き、今し方の会話は実は全然成り立っていなかったことに苦笑した。 「何って……。君のことすごく可愛いから、中で話そうって誘ってたとこ。開店には少し早いけど、初めてみたいだし開店前まではサービスするよ」 キラは慌てた。 というか、何なんだこのオレンジ髪のミョ〜に馴れ馴れしい男は! 「あのッ!僕そういうつもりで来た訳じゃありませんから」 だが、オレンジ髪の優男は諦めなかった。こういう業界、諦めが良すぎては生きていけない。 「大丈夫。すぐに慣れるし、全然怖いとこじゃないから」 「違うんですっ!話を聞いてください!」 「俺も君と話したいな。中、入ろっか」 「って、迂闊に中入ったら、お客さん扱いされてすごい高いお金取られるんでしょ!僕知ってるんだから!それに僕は今、釣り銭しか持ってません!」 オレンジ髪の優男、ハイネはきょとんとした。だとしたらこのうぶな少女は仕事で来たというのか?こんな時間に?こんなところに? 「判った。誰かを追っかけてきたんだ……」 水を向けると少女はホッとしたように微笑んだ。 (うわ、本気で可愛いかも…) 「今日こそ!今日こそザラさんとお話しするんです!こっちだってもう限界です。待てません」 「ああ、アスランの奴追っかけてきたんだ。仕事で?」 「はい」 「ん、じゃぁ判った。お客扱いしないから中入って待って。アスランの奴もう少ししたら来ると思うから」 こくんと頷いたキラの肩を抱き、ハイネは正面から堂々と店に入った。すると早くも中から同僚のヤジが飛んでくる。 「待ちきれない子?やっぱやるねぇ」 「そんなんじゃないよ。彼女は仕事で来てる。やむにやまれない事情があるそうだ」 「仕事?こんなところまで?しかも開店前に?」 営業中なら少し待てば、指名でいつでも呼び出せるはずなのに、だ。とりあえず女の子を立たせておくのもいけないので、近くのソファに座ってもらう。開店前だ。料金はかからないと、店長もキラに説明した。 「君、いくつだ?」 銀髪の青年がキラに優しく声をかけた。 「じゅ…18になったばかり」 「そうか。だからこんなに可愛いのか」 「そ…そーいう営業文句にもっ騙されませんからねッ」 銀髪の……イザークは少し手を挙げて苦笑した。 「俺は営業中以外は、仕事をしない主義なんだ。嘘じゃぁない」 キラはどう反応を返していいか判らずに、少しむっとした表情を返してしまった。 「あ、コイツはイザーク。俺ハイネって言うんだ。……で?アスランの奴ナニしたの?捕まるようなこと?」 キラはぶるんぶるんと首を振って否定した。 「プ…プライベートな事ですから」 「何だろ?個人的な金の貸し借り?」 「個人的………ってほどでもないんですけど…」 ………………で、結局店の熟練ホストたちの誘導尋問にキラは結局屈してしまった。悪いことを言ってしまったと反省するキラに、彼らは優しく声をかけた。 「大丈夫だよ。ここにいる人たちはみんな勝手知ったる仲だから」 キラが教えてもらったところによると、バイト時代の同期とか親が知り合いとか何とかで案外仲のいい仲間みたいなものだそうだ。そうこうするうちに、噂の人はやってきた。 「お、アスラン来たぜ」 キラがきょときょととしていると、黒に近い宵闇色の…まぁ最後の優男が入ってきた。 「アスラン遅い!」 「悪かったな…」 「可愛い女の子を待たせるなよ。ほい、お前にお客さんだ」 「というかア〜〜スラン〜〜〜」 「何だよニコル」 「振り込みに行かれないなら自動引き落としにしませんか?や・ち・ん」 アスランはニコルの顔をまじまじと見て、しばらく固まり何かに気づいた。 「家賃!!!!!忘れてた……」 そのアスランの前にイザークが立ちはだかる。 「いい度胸じゃないか。給料に困ってるわけでは無かろう?」 「じ……実は………」 珍しくオロオロするアスランの説明とキラの補足を合わせると、真実が見えてきた。 次ページへ→ |
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