第3話
シンは目を見張る。 彼の目に映るもの…人間の部分は顔と腕だけで、あとが全て魚なせいで、人間が魚の着ぐるみを着ているようにしか見えないが、ソレはまさしくサカナであった。 「ほらシンも。遠巻きにしてないで触ってごらん。すごく気持ちいいからv」 そう言いながらアスランはべたべたべたべた人魚に触る。 少し間をおいてシンが恐る恐る触ろうとしたときに、彼は人魚の尻尾による強烈な水しぶきを浴びることになった。 「あれ?シン、嫌われてる…?」 アスランが不思議がったとき、キラが不安そうに口を開いた。 「だって…その人、瞳の色が血の色みたいで気持ち悪い……」 「…………………」←シン 「ヨカッタぁあああああっ!ちゃんと言葉通じるんだぁあv声も可愛いなぁっ!ねぇ、俺はアスラン。君の名前は?なんて言うの?」 ここに間違った人間と、間違った人魚は出会ってしまった。シンは…強烈にそう感じた。 「キラです。キラ・ヤマト…」 「キラって言うんだね。可愛い名前だね。ね、どうしてここに来たの?」 「あのね、僕実は人魚の国の王女なの。で、父さんが僕にもお婿さんを迎えなきゃって言って、変な人ばかり連れてくるから…嫌になって家出してきちゃったの」 「へぇ〜〜同じだね…俺と。俺も、変な女と婚約させられてて、それが嫌で逃げ出してきたらこうしてキラと会えたんだ」 間違った王子と間違った王女との間違った会話は弾む。 なんだか花とハートマークが飛び交うその雰囲気に、シンは入っていけなかった。止めなければならないはずなのに、声が出ない。手が、宙をさまよったまま固まる。 「僕も…。油断してて人間に釣られたときはすっごく後悔したけど、あなたを見たときすっごくかっこいいなって思って…こんなとこ来ちゃったけど、本当もう一度会えるなんて思ってなかったから…」 「良かった。じゃ、明日もここに来ればもう一度会える?本当は今すぐにでも王宮に連れて帰りたいんだけどね」 「アスラン…」 「大丈夫vちゃんとキラ用のプールを用意できるからv」 嬉しそうに語るアスランに、キラは不安そうになり、コラーゲンたっぷりの瞳(←魚のほう)を寂しげに揺らした。 ※キラは今、頭が金目鯛、顔が人間のせいで目が4つある。 「あのねアスラン。僕…アスランのために人間になりたいんだ。今のままじゃ、アスランが会いに来てくれない限り、僕は君に会えないから…」 「キラv」 「でね、知り合いの魔法使いに相談して、とりあえず人間になる薬を作ってもらったんだけど、急いで作ったからどれもうまくいかないし、1日しか効果なくって……ぁっ!!!」 キラの声とともに、彼女の身体に変化があった。 いわゆる「典型的な人魚」に戻った彼女。その姿を見て、シンはど〜〜〜うしてもツッコまずにはいられなかった。 「…ってか、こっちの姿のほうが断然良かったんじゃ……」 「か……っ!可愛いっ可愛いっ可愛い〜〜〜〜〜ぃっ!!!!!俺の目に間違いは無かったっキラぁっ、結婚しようッ今すぐ結婚しようっっvV」 いきなりな展開に面食らったのはシンだった。おかげで我に帰ることができたのは幸いか。 「はァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?何言ってんすかアンタはッ!!!」 それは…臣下としてもっとも当然の反応だった。ところが二人は既に何も聞いていない。 「嬉しいっ!ありがとうアスランっ、僕本格的に人間になれる薬作ってもらってくるねっ時間かかるかもしれないけど、必ず帰ってくるから待っててねっv」 そしてキラは…ぱっと花が咲くように笑って、再び海の中に大胆にダイブして消えていった。 「忘れましょう、アスラン。あれはやっぱ俺たちとは違う種なんですよ…」 「胸の大きさも理想的だぁあああああ〜〜〜〜〜〜っv」←大絶叫 シンがぎょっとしてアスランのいたほうに振り向くと、彼の姿はそこには無く、はるか遠くかなたで、ありえないスピードでスキップしながら王宮に帰ってゆくアホを視認した。 そして、きっかり半月後。 「ごめん…遅くなっちゃった…」 「いいやvこんなの全然待ったうちに入らないよv」 王子アスランと、人魚なキラは二人で逢引していた。 「…で、これがみんなと相談して作ってもらった薬なんだけど、なんか条件があるらしくって…」 「条件?どんなの?」 「意味が良くわかんないから、飲まずにここまで持ってきたの。なんかね、これを飲んでもアスランの僕に対する気持ちが本気じゃなかったら、僕は人間にはなれないんだって」 「なにそれ?」 「僕が飲んで、24時間以内にアスランから本気の愛を受け取れなかったら、僕は人魚じゃなくて魚人になってしまうんだって」 魚人…それは、上半身が魚で下半身が人間という、ちょっと岡●太郎ちっくな姿だという。 「っていうと、タリアと見たあの岡本●郎ちっくな…あの姿か。あ…でも、それはそれで触り心地よかったから、もしそうなったらやっぱプールに連れて行ってあげる。ん?待てよ?そうしたら食べ物よくわかんないなぁ、いつもどんなもの食べてるの?」 「ん〜〜〜、ワカメとか…岩海苔とか、とにかく海藻類。ベジタリアンなんだよ、人魚は」 「オッケー!じゃ、今すぐ飲もう!」 「うん、じゃ…飲むよ?」 キラは小首をかしげながらアスランに笑いかける。その姿にアスランが滝のような感涙にむせっている間に、彼女はサッサと例の薬を飲んでしまった。 「うげ!甘苦すっぱ辛い…」 すると、効果は間もなく現れた。急速に変化してゆくキラの下半身。ちなみにこの後起こったことを、キラは後日よく冗談めかしてアスランに語ることになる。 <あの時は、どうなるか不安で…でもちょっと、いやかなり痛かったけど、アスランずっと優しかったし…僕今でも全然後悔してないよ……> ポッと頬を赤らめてキラが言うたび、彼女はアスランに流されてゆく羽目になる。 第4話へ→ 魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚 言い訳v:どこの人魚姫に、人魚を飼養するためのプールを用意したがる王子さまがいるというのか(笑)そして王子さまと「あらかじめ打合せ」をする人魚(笑)バカばっか(爆笑) 次回予告:キラお持ち帰りvミーアとの対決……をサラッと流して、誰もが指摘したくなかった、人魚についての暗黙の了解編。次回で終了します。 |
お読みいただきありがとうございました。ブラウザバックでお戻り下さい。