第2話
「………確かに…そう、見えなくも無いわね」 「ん〜〜〜、やっぱり無理っぽいかな〜。釣ったばかりだし新鮮だと思ったんだけどなー」 そう言いながら、無造作にアスランは人魚の身体をべたべた触りまくった。そして、彼は驚愕して目を見開き…そのまま固まって動かなくなった。 「どうしました!?」 「さ…っ、触り心地いい……」 「……………はぃ?」 「すっごいい触り心地〜〜〜vねぇタリア、これ連れて帰って、飼ってもいいかなぁ?」 その瞬間、タリアの手加減の無いストレートがアスランの顔にめり込む。 「だめです!無理です!」 「プールの水を抜いて海水にすれば充分飼えるって!」 「そういう問題じゃないでしょう!今すぐ海に返してあげなさい!!」 タリアはそう叫んで、ポケットに忍ばせておいたミニ七つ道具からはさみを取り出すと、人魚についた釣り糸を切ってあげ、釣り針を丁寧に抜いた。 すると人魚はすぐに、両足で立ち上がって海に向かって全力で走っていった。 だがその一見滑稽にすら見える光景も、アスランには通用していなかった。 「うわぁ……可愛いなぁ…」 ノイマンやアーサーたちの証言によれば、この後すぐアスランはタリアに殴り飛ばされ、空に消えたまま姿が見えなくなったという。 その夜、キラは王宮には帰らずにとある場所に直行し、目の前の相手をぎゃんぎゃんと怒鳴っていた。 「嘘つきっ!大丈夫って言ったじゃん!!今日僕はひどい目に遭ったよ!」 「そんなことは無いですよ。俺はちゃんと渡しましたよ。その薬をちゃんと使ったんでしょう?」 「使ったよ!黄色に白い模様のある飴玉でしょ!」 「え?それ違いますよキラ…」 「うそぉ!ちゃんとここで貰ったよ?何でぇ?」 「ちょっと待ってください」 そう言って魔法使いのレイは奥の部屋に消えた。間もなく出てくると、まず最初にキラに謝罪した。すぐに後ろから、兄のクルーゼも出てきた。 「それはレイが渡す袋を間違えたんだ。黄色に白い模様の飴は私の失敗作だったのだがな」 なんでもないような言い草の割には、結構すごいことを言っている兄クルーゼの爆弾発言。 「ぅぇえ〜〜〜〜〜っ!なんだってぇ!!?」 「だから兄さん、使う袋の模様はきちんと分けてくださいと、あれほど言っているのに」 そしていつもの兄弟げんかが始まった。しかも…同じ声で同じ話し方で。 「兄弟なんだからどっちだっていいじゃないか、レイ。お前は弟のくせに細かいことを気にしすぎるんだ」 「そういう問題じゃないです。確かに飴玉ですけどれっきとした薬効があるんだから」 「仕方ないだろう、この家は狭いんだから!」 「…って兄さんまさか、研究壷も共用してるとか…?」 「いや当たり前だろう」 その瞬間、キラの種が割れ、この兄弟の家は壊滅的な打撃を受けた。 「ダメだ…もっとまともな人に頼まなきゃ……」 そうは言っても、数いる魔法使いに「まともな人」などいるはずが無い。 キラは仕方なく片っ端から当たることにした。そして翌朝朝もやが美しく(←?)海を照らす頃、キラの持つ袋の中には、いろいろな色の飴玉がにぎやかにその存在を主張していた。 「あんまり回りすぎて、どれがどれだかわかんなくなっちゃった…」 ラクス玉、二コル玉、デュランダル玉、レイ玉、ディアッカ玉、バルトフェルド玉、アイシャ玉……どれも一長一短があり、なかなかキラの望むような飴玉は見つからなかったせいだ。 無理もない。急遽しつらえてもらったものなのだから。 「ま…仕方ないよね。ひとつづつ試せばいいんだし。幸い、あの人はぼくをとって食おうって言ってなかったし。また…会えないかなぁ」 そしてここにも間違った考えの持ち主がいた。 そして彼女は、昨日の海岸に再びその身を寄せた。適当な岩陰に隠れて様子を伺っていると、果たしてすぐに彼はやってきた。 「本当に、お戻りにならなくていいんでありますかぁ?」 「いいんだよ!そんなことよりこの辺りだったんだ。人魚がいたのは」 「人魚なんて…いませんよ。大体それ思いっきり空想上の動物じゃないですか!」 「何を言うんだシン!お前も見れば認めざるを得ない。人魚は確かに存在するんだ」 「……ま、いいですけど…。で、その人魚を見つけて、どうするんです?」 「飼うんだよ、王宮のプールで」 「………はァ?」 シンは訳が判らない。確かに昔からこの王子の考え方についてゆける者など少なかったが。 「結構体が大きくて、俺一人では運べそうにないんだ。だからお前を連れてきたんだろ!」 「そんなこと言ったって…。昨日ここで釣り上げられたんでしょ?そんな怖い思いをしたんだったらもう、こんなところには寄り付かないんじゃないですかぁ?」 「仕方ないだろ!ここしか手がかりがないんだから!俺は………ぁあ〜〜〜〜〜っっ!」 「ぇ…?」 「いた…」 「マジっすか!!?」 アスランの視線の先、シンが岩陰を見るとちょっとホラーな光景がそこにはあった。 海水に濡れたごつごつとした岩に、女の腕が片方乗っている。シンは一瞬にして引いた。 「怖ッ!」 ところがアスランは嬉々として腕のほうへ寄っていく。そして彼は昨日の極上の触り心地に再び出会った。 「あ!今日は顔がある…ってか、超ビンゴ〜〜〜!ムッチャクチャ可愛いっv」 そして王子様は飛び上がって大喜びした。 「殿下…本当にコレなんですかぁ?なんか、えんらいグロいんですけど?」 「何を言うんだ!最高に可愛いじゃないか!俺の思ったとおりだぁ〜〜〜v」 第3話へ→ 魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚 言い訳v:だから…うちのアスランは基本的に「変態」なんですってば(冷汗) ところで何でキラは変わった姿で釣り上げられてたのかというと、家出で帰らないつもりで出てきた→とりあえず人間になってどこかに泊まろうと思い、クルーゼ、レイ兄弟の元を訪れた→頭が魚なせいで釣り針に気づかずエサに飛びついた……という情けない実情があります(大笑) 次回予告:キラは愛する彼のために人間になることを決意するのです。どうです?一見、まともげな次回予告でしょう(笑) |
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