キッチュ☆フィッシュ☆プリンセス!

第1話


 その日、海は荒れていた。

 だからといって雨が降っているわけではない。確かに海面を見ればいつもの穏やかな凪だ。嵐は、水面下で起こっていた。


「姫さま〜っ」

「姫さま、どちらにおいでなのですかー」


 侍女たちが必死に、姫と呼ばれる人を探していた。そこに時々、野太い声も混ざる。

「くぉらぁああああッ!キラァアアアアアッ!!!出て来〜〜〜いっ」


 国王、ウズミの怒りに狂った声だ。彼は猛然とこの広い屋敷の中を泳ぎまわる。



「もう、ここには居ないんじゃないの?ていっても、海の中に逃げられたんじゃ、探しようが無いし…」

 横合いからかかる無神経な声に、周りのすべてから冷たい視線が突き刺さる。


「もう!ムゥったら、ダメでしょ!みんなを絶望させるようなこと言っちゃ」

 この国の次期国王ムゥである。隣には、妻のマリューもいた。


「だって、そうじゃないかマリュー。こんだけ探していないってことはさ、やっぱ書置きどおり家出しちまったんだよ、キラは」

「でも、心配だわ…もし、海の外になんか出たら……」


「大丈夫さ、キラもそこまでバカじゃない。そんなことより、あまり無理するなよ。もう…近いんだからさ」

「んふっvわかってるわvVムゥv」



「ソコーーーーーッ!いちゃつくだけなら、出てくんな〜〜〜!帰れ〜〜〜!」


 悲鳴に近いような、第二王子カガリの怒鳴り声が聞こえ、ムゥ・マリュー夫婦は誰にも邪魔されることなく、自室でいちゃつくことに決めたらしい。





「見つけたか?カガリッ」


「ダメです…お父様。やはりムゥ兄貴の言うとおり、もう海面に出たんじゃぁ…」


「くそっ!海の中ならまだしも、陸に上がってはダメだとあれほど言っておるというのに!」



 そこにキラ付きの侍女姉妹が入ってきた。ルナマリアとメイリンである。

「だめです…見つかりません」

「もう、王宮にはいらっしゃらないのかも…。海の中をお探ししたほうがいいんじゃぁ…」


「ううむ…仕方ない。では手分けして探そう」


 そういうことに、なった。





 その頃、当のキラはというと……「釣り上げられて」いた。


「こ…これは伝説に言う、人魚ってやつなんじゃないのか?」

 村人その1トノムラ。


「えぅぇえええーーーーっ!でも、ありえないですよ!聞いたことありませんよ、こんな…こんなのって……」

 村人その2アーサー。


「村のバァさんから聞いた話では、もっと違う感じだと思ってたんだが、間違っては…いないしなぁ…俺たちの解釈の仕方が違うのか?」

 村人その3ノイマン。



「……とりあえず、役所に届け出よう」

 トノムラの妥当な案が出された…まさにそのとき、近くから絶叫が聞こえてきた。

 見たところ、少年が、一人の女性に追われている。





「全く!しつっこいな君も!俺は戻らないって言ってるだろう」

「そうは参りません!さぁ、今日こそ姫さまとお会いいただきます」


「だから!ミーアは親が勝手に決めた許婚であって、俺は認めてないぞっ」

「何を言ってるんですか!これは好き嫌いなどで決められる問題じゃないでしょう!いい加減、現実を見なさいッ」





「おい、あれ。役人じゃないけど、身分の高そうな人だしあの人に言ってみよう!」

「い…いいのか?」



「だって、ここから一番近いんだもん」

 という、いい加減な理由でアスランとタリアは呼び止められることになった。





「何の御用でしょうかっ!私は今一番忙しいんですけどッ」

 事態が事態だけに、タリアは憤慨している。これでは問題が倍増しているだけだ。



「いや、たった今われわれが釣り上げた魚のことなんですが…」

 アーサーが言いかけたとたん、タリアはアスランの腕を引く。


「帰りましょう。たかが魚ごときでいちいち呼び止めないでちょうだい。そんなに気になるなら、役所になり何なり突き出しなさい」



 ところが、アスランはとんでもないことを口にした。

「そんなに大物だったの?それ、食べられるの?」


「「「え“…」」」


 村人たちがいっせいに…引いた。



「あ、あの…私たちもよく知らないんですが、なんだか…人魚みたいなんです」



「「人魚!!?」」



「ええ。とにかくご覧ください」


 そして、彼らの視線はひとつに集まった。

 そこには、金目鯛のような真っ赤な魚の上半身に、なまめかしい人間の足がついていた。ちなみにえらと思われる部分からは「腕」が生えていて、陸に揚げられたのが苦しいのかひたすらじたばたしていた。


「何…コレ……」


 気持ち悪そうなタリアの言い分。彼女は充分に常識を兼ね備えた女性だった。



「おいしそう…」

 ところがここに、一人間違っている人がいた。何を隠そうこの国の王子アスラン・ザラその人である。

 そして村人たちとタリア共通の思い。



((((…どっちが………!?))))



「ねぇ、これ今から刺身におろせない?」

「ぇっえぇぇえええ〜〜〜〜〜っ!」


 アーサーが驚愕のあまりオーバーリアクションになっているうちに、ノイマンたちが冷静に「人魚」を見て言った。



「「言葉、判るんじゃないスか?なんか、ムチャクチャ嫌がってるように見えるんだけど」」


「…………………………」



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魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚魚
言い訳v:あり得ない王子さま…そこはそれ、アスランさまですからv

次回予告:人魚姫と言えば「魔法使い」に「人間になるクスリ」のハズなんですが………?

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