ふぇいず 8
キラの瞳が開いたのは夕方になってからだった。気が付いた、とは言っても未だにショックから立ち直れていないのか、視線が定まらずさまよう。
「……キラ………」 心配そうに覗き込む友人の姿を見つけて、視線はようやくそこへ集中した。……と思ったら、キラはすぐにボロボロと泣きだす。
「僕は……僕、僕は…っ………」
あの時と同じ顔をしていた。そう、大戦中、自分の出生の秘密を報された時と同じ表情を。そんな表情を見ていられなくて、勇気づけようと肩を抱き寄せるとキラは素直にすがりついて、声をあげて泣きだした。
「僕…もう戻れないのかな?こんな身体じゃ、ラクスにも嫌われるよね…」 「いや!ラクスはキラのこと嫌ったりなんかしてないさ!」 「…でも、女同士じゃ付き合えないって…ラクスが……」
「キラっ!!!」
泣きじゃくるキラを叱ってはみたものの、「それはラクスが腹黒だから」とは口が裂けても言えなかった。あのぽよよんな雰囲気に騙されてはいけない!アスランはそれをイヤと言うほど体験していた。
以下、アスラン・ザラ回想シーン
「あなたが信じて戦うものは何ですか?頂いた勲章ですか?それともお父様のご命令ですか?」
いくら、キラをエサに俺をおびき寄せる作戦だったとはいえ、判っててこういう表現をする辺りが何ともブラックだ!
第一、こう言われたら俺はキラの元に走るしかなくなるではないか!
そしてそのあとも、キラのあずかり知らぬところで、俺にズケズケと命令してくれたものだ。 挙げ句の果てには、キラを迎えに行こうとしたら即座に却下しやがった!アレは絶対嫉妬だな!ラクス!
そーまでして俺とキラとの仲を裂こうとしているのか!?
それならそれで、俺にだって考えというものがあるぞ!
以上、回想シーン終わり。
しかし…いつまで泣き続けるのかと思いきや、ようやく顔を上げるとキラはとんでもないことを言い出した。 「僕…これからどうなるのかな?誰か他の男の人と一緒になって、その人の子供を産むのかな?」
「……………はぃ!!!!!?」
今、キラはなんて言った!!?アスランの頭がいつも以上にぐるぐる回った。
「知らない男の人と一緒になるのはイヤだよ。……ってか、誰も信じてくれないよね?ある日突然女の子になったって………」
アスラン・ザラはピンチだった。
何がピンチかって、不安に彩られたそれはそれは強烈に可愛らしいキラ(♀)の顔が、すんごい至近距離からまっすぐ自分を見つめていたからだ。心臓が、普段の3倍くらい拍動しているようだった。 つまりはアスランも今、超〜絶お年頃(!)と言うことで………。
「だ……っ…大丈夫、だよ!キラは、俺が………」
途中まで言いかけたところで。自分の失言にハッとするアスラン。一気に頭に血が上ったせいでとんでもないことを口走ってしまったようだ。しかし、言い直そうとしたところをキラがさえぎった。
「ホント?ホントにこのまま治らなかったら、アスランと一緒に暮らす!」
ピィーーーーーッ!!!!!
アスランの頭で火山が噴火した。
「……キッ……キ、ラ………」
「だって…こんな身体になっちゃって、すごく恥ずかしくて、でも…他の人には言えないし、判ってくれるのアスランだけだし、僕……もう本当に君しか頼りに出来ないから………」
なんと!どうやら人の気も知らず、キラは意外にマジメな話をしていたらしい。
そりゃぁね、女の子になった途端、あれだけマリューさんやらラクスにいいオモチャにされたんじゃぁねぇ…。キラが泣きたくなるのも解らなくもない。
自分が同じ立場でも、泣きたくなるだろう。 …とはいえ、アスランは起こりかけたヘンな期待心を恥じた。海より深く恥じた。
「キラッ!!!!!ごめん!俺が勘違いしてたよ。大丈夫だから!ね?俺が、ずっと付いてるから!今までもずっと一緒だったようにね」
「……うん、わかってる。大丈夫、僕…もう離れたりしないから」(大戦中みたいに)
ひし!と抱き合うお互いの美しい友情シーン!……しかし………、
「アスランく〜ん、キラ君…目を覚ましたのぉ〜?」 「キラ……」
入ってきた女性陣が凍りついた………。
そりゃそうだろう。ハタ目にはアスラン(♂)とキラ(♀)が抱き合っているようにしか見えないのだから。彼女たちの脳裏には、医師の忠告がフル稼働で再現されていた。
次回予告:マリュー絶叫!ラクス絶叫!アスラン&キラも絶叫!そして吹きあれる勘違いの嵐!!……全てが判明した時………すでに遅かった……(なんのこっちゃ) |
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