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ふぇいず 5

 

 

「キラ君、キラ君。どうしたの?彼、大丈夫?」

 

 外からマリューの声が聞こえる。キラはアスランの部屋から出た。

「なんか、僕たちが行った後に大量の血が出ちゃったとかで、倒れたって…母さんが…」

 聞くなりマリューは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。

 

 

「は…?コーディネイターって、病気にかからないんじゃないの?」

 

 

 キラは思わず面食らう。

「何言ってるんですか!コーディネイターだって、万能じゃないですよ」

 

「あ…そうなの?」

 

 

「そうですよ。それよりとにかくカガリには言っとかなきゃ」

 キラの焦りをピンクのお姫様が止めた。

「でも、本当のことを言ったらカガリさん、お見舞いに来られますわね…」

「あ…そうか」

「キラ君の姿を見て、パニックになる方が先ね…」

 

 

 困ったキラに打開策を示したのはバルトフェルドだった。

「何とか誤魔化せばいいんだろう?ほら、プラントの方で急用ができたとか何とか、…とにかくしばらくは誤魔化せる理由を考えるんだ」

 

「そうね。キラ君がこのままならまだしも……元に戻る可能性があるなら、知らない方が幸せかも知れないわね」

 

 

「ええ。…とにかく僕、今夜は付いてますから。母さんだって朝早いんだし」

「キラ…?」

「アスランが病気した時もずっとこうしていたから、大丈夫ですよ。何かあったら知らせます」

 

「キラ……」

「僕やラクスもずっと同じところにいて、アスランだけってコトは、伝染性のウィルスとかじゃなさそうでしょ?」

 

 

「お願いね。とにかく、お夕飯にしましょう。…で、ゴメンみんな!今日は出来合いのお総菜」

 

 

「あ…その前にキラは、着替えてきて下さいね」

 

 イヤなことを思い出さされ、キラはげんなりして自室に着替えを取りに行こうとした…刹那、マリュー&ラクスにガッシリと腕を捕まれる。

 

 

「女の子の時は女の子のものを着・る・の!!!」

 

 

「ええーっ!」

 

「…でないと、今度こそ本当にわたくしのカクテルドレスを着せますことよ!」

 ラクスに脅され…キラは渋々従った。

 

 

「どうでもいいが…よく似合うねぇ…」

「…ッ!バルトフェルドさん!冗談はやめて下さい。ただでさえ恥ずかしいのに…」

「大丈夫よ!すぐに慣れるから…ね?」

 マリュー・ラミアスが意味深な視線をバルトフェルドに向け、彼もニヤリとした。

 

「なんなら、このまま女の子続けたっていいんだぜ…?」

「な…っ!冗談じゃないですよ……」

 

 

「まぁまぁ、キィラ。あなたも明日病院へ行きましょうね」

 カリダ・ヤマトが言う。キラは思わず母の顔を見返した。

「だって原因がわからなければ、どうしようもないでしょう?」

「うん…判ってる…けど、アスランが目を覚ましたら行くよ。それまでは、付いてていいでしょ?母さん」

 

「そうね。ずっとアスラン君見てきたけど、こんな事って初めてだしよく判らないものね。ああこんな時レノアがいたらって思うけど…」

 

 レノア・ザラ。アスランの実の母親はユニウスセブンで亡くなっていた。しかしこれはさすがに実の母親でも理解できないのでは?バルトフェルドはそう思ったが、あえて口にして混乱を招くのを避けた。

 

 

 深夜過ぎ。アスランの目がうっすらと開いた。それに気が付いたキラの顔がパッと明るくなる。

「キ…キラっ!!!」

 

 しかし、そういって驚いたアスランは無意識に鼻を押さえていた。

「アスラン?どうしたの?僕、母さんから倒れたって聞いて、すごく心配して…」

 

 

 化粧は落としているがキラの端正な女顔が間近にある……それだけでアスランは吹き出しそうだった。しかしまさか、キラ(♀)の下着姿にクラクラして大量の鼻血を出したとも言えなかった。

 

「ちょ…ちょっとした貧血だと、思うよ。ここのところ、そのっ仕事が忙しかったから…」

 

 大急ぎで誤魔化した。さすがにバレてるかな〜と思って友の顔を見返すと、本気で心配している表情をしていて、ホッと安堵のため息をついた。まだ…バレてない!

 

 

「そう…。あのね、しばらく私用で休むって、カガリには言っとくことになったから。大丈夫だよ、みんなが適当な理由を考えてくれるって!」

「…え?」

「ほら、僕今こんなだし。明日病院へ行って、ちゃんと診てもらうことになったから」

「そっ…か。じゃ、その間に元に戻る方法、見つけないとね」

 

「ありがとうアスラン!じゃ、明日は一緒に病院へ行こうね」

「……え?俺も?」

 

「だって、母さんから血を流して倒れたって聞いて…僕、すごく心配して……だから、アスランも診てもらわなきゃ!」

 

 

 嬉しそうな顔をしてキラは立ち上がった。どこへ?と訊くとみんなに報せに行くという。

「いいよ。今夜はもう遅いし。俺は大丈夫だから、キラも寝て」

「今夜はここにいるよ。昔みたいに僕が付いててあげる」

「キ〜ラ〜!」

 自分もキラももういい年なのに…少々呆れ気味ではあったが、それでも友の気持ちが嬉しくて、ない交ぜになったような口調になった。

 

「…ん……?」

「寝るなら入れよ!キラこそ、身体冷えるだろ?コーディネイターだってカゼくらい引くんだぞ」

「うんっ!」

 

 

 花が咲くように笑ってキラは昔みたいにベッドに潜りこんだ。ところが…嬉しそうに眠るキラとは対照的に、アスランはかなり後悔していた。考えなしに言ったはいいが、ヤマト家に泊まっていたあの頃とは違う、今のキラは完全に妙齢の女の子。

 

 そんなただでさえ美人なキラの顔が目と鼻の先にあって、呼吸や温もりがこんなにも身近に感じられる。改めて見るたびその細っこい指や、伸びてしまった長い鳶色の髪、ふわっと薫る女の子の匂いに心臓が高鳴った。

 

 

 しかし、そんなことなど知るよしもない当のキラは未だ友達のつもりだ。

 

 「しまった!これはある種の拷問ではないか!?」とアスランは思った。だが、言い出したら絶対引かないキラに「どうしても部屋に帰ってくれ」と言うわけにもいかないこの事実。

 そんなこと言ったら、説得できる自信はない。

 

 

(ゴメンっ…マジで、キラ……女の子にしか見えないっ!!!)

 

 

 キラの心は男のままだし、キラは俺を普通に見られるだろうけど……俺は…?

 

 どうすんの?

 

 目の前で凶悪に可愛い顔して寝てるコイツは、どう見たってお年頃の女の子……そりゃ俺だって、一応にはお年頃だ。

 キラが男でなかったら、可愛いなって思ってしまう、ついのどが鳴ってしまう歳なのだ。でもだからって、俺がキラを避ければ、コイツはまた泣いてしまうだろうし……。

 

 

 ああっ!もう、どうすりゃいいんだッ!!!

 

 

 アスラン・ザラは頭を抱えてうなった。

 

 

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 次回予告:仮定夫婦。この期におよんでなんにも判っちゃいないキラ。その横で鼻血噴射を鉄壁の理性でガマンしたアスランの気苦労は続く。そんな中、とんでもないキラの寝起きの悪さが発覚!それは全てを巻き込むものだった……。

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