ふぇいず 4 「あ…あの〜ぅ、まだですかぁ〜?」
試着室の外では女性陣の嬌声が響いている。さっきからキラは待たされっ放しだった。このセレクトショップに入るまでも散々時間がかかったというのに、入ったら入ったで女性のオシャレに賭ける異常な情熱はさすがのキラでも理解できない。
「もうちょっと待ってー!」
マリューさんのこのセリフももう何度目だろう?キラはため息をついた。この分ならアスランと来た方が早かったか?どっちにしたって、今の姿のまま外に出られないのは確かであった。
「はぁ〜〜〜……」
ついで鏡に映る下着姿の自分を不思議そうに見つめる。ブラの内から覗く胸を指でつついてみるとぷにぷにした感触が返ってきた。
「う゛〜ん…本物だ…」
不意にカーテンの隙間から何かが差し入れられた。 「キラくーん、このブラも試してみてぇ〜♪」 「またですかぁ?…って、イヤですよ!こんなハデなのなんて…」
「だってさっきのちょっと合わないって言ってたじゃな〜い。コレは命令です!」
「はーい、ちょっと失礼しますね〜」 そういって女性の店員が入ってくる。キラはその度にどぎまぎしていた。その間に店員は手際よくホックを閉める。キラは後ろに手が届かないからだ。
「あ…でもこれいいと思いますよ。キレイだし」
「え?どれどれ?」 がやがやとマリューさん達が入ってきた。女性同士という安心感からか全く遠慮というものがない。不慣れなキラはそれだけでもクラクラしているというのに。
「これ、イイじゃな〜い!これにしましょ!サイズもピッタリだし、前のよりきつくはないんでしょ?」 「ええ…そりゃぁ、まぁ…」
「はい!じゃこれに決まり!あ、色違いとデザ違いを少し持ってきて貰えます?」
ずっとそんな感じで数時間。ウンザリするほど付きあわされ、もう二度と女性のオシャレのお供はしないと強く誓ったキラだった。 「はァ〜〜〜……」
「キラ君。今日はお疲れさま!後はお茶して帰りましょうね」 「…え?」 「ケーキ…おごってあげるわ」 「そうですわよ、キラ。今日は本当に頑張りましたもの!」
優しそうな表情を向けられ、キラは少し心が和らいだ気がした。さっきまではまるで鬼のように見えていた二人ではあったが。なんだかんだ言ってこの二人は優しいのだ。それはよく知っていた。
ただ…ちょっと好奇心とイタズラ心が強いだけで…。
「あ…あの、マリューさん!今日はなんか、全部お金出して貰っちゃって……」
「いいの!これは。それに、あなたが貰ってた給料なんて、微々たるもんでしょ?」 給料…それはアークエンジェルで少尉だった時期に振り込まれた僅かな金額を指す。あの後程なくしてMIAになってしまったので、利子を含めても小遣い程度しかない。
「すみません。あ、でもプログラム関係で何かバイトでもしますから…」 「それもそうね。まだ若いんだから、私たちも、何か解らないことがあったら、お願いできるかしら?」
「ええ!喜んで」
キラはお店でケーキを食べたのは初めてだった。ケーキといえば、誕生日に母が買ってきてくれる小さなバースデイケーキだったから。それにしたって、キラは恵まれていた。機会はキラの誕生日とアスランの誕生日で年2回巡ってくるのだから。
家に帰るとカリダがキラを捕まえた。 「キラ…アスラン君が……」 少し不安そうな表情にサッと緊張が走る。 「え…?どうしたの?母さん…」
キラは未だにカリダ・ヤマトのことを「母さん」と呼ぶ。本当は叔母に当たるのだが、ずっと母だと信じて育ってきたのに今更、叔母さんと呼べるべくもなく、また彼女もそう望んでいなかったからだ。
「倒れてしまったのよ。あなた達が出かけてすぐに。たくさん血が出てたから、ちょっと心配なの……」
「……!!!血!?」
「この辺りにコーディネイターのお医者様はいないのかしら…」 カリダの話をほとんど聞かずに、キラはアスランの私室に直行した。
「アスランっ!!アスラン、大丈夫?どこが悪かったの?黙ってちゃ解らないじゃないか」
「…あ…キラ、お帰り……」 ボーっとした瞳でアスランはキラを見た。そして、朦朧とした頭で、とんでもないコトをのたまった。
「キラ……やっぱかわいい………」
凍りついた時間が溶け、キラがようやく「は…!?」と思った時には彼は再び気を失っていた。
次回予告:女の子になったキラがアスランのベッドに潜りこむ(ぇ)アスラン鼻血噴射5秒前!はたして理性はいつまで保つのか?彼のガマン大会が、今始まる!! |
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