coodidaiji.jpg

 

 

ふぇいず 13 

 

 深夜すぎ、とある部屋のドアが静かに開いた。中から顔を出した人が用心深くきょろきょろと辺りをうかがう。誰も起きてきそうにないのを確認するとホッとしたように、息を一つついた。そして、抜き足差し足で、別の人の部屋のドアを静かに、猫にさえ気づかれそうにないほど慎重に空け、また同様に閉めた。

 

 

「………。ふぅ…ここまで来れば、大丈夫……かな?」

 

 そしてそぉっと…そぉっとベッドですやすや寝てる人の元に向かった。それでも周りに最大限の警戒を払い、驚かせないように優しく撫でるように肩を揺する。

 

 

「起きて…ねぇ、ちょっと起きて。アスラン」

 人物の正体はキラ・ヤマト。彼は今、親友アスラン・ザラの部屋への侵入に成功したところだった。

 

「……………」

 

 しかし…見込み違いが一つだけあった。

 

 

(起きやしない……)

 

 

 キラは、不機嫌な表情になってアスランの鼻をつまむ。程なくして呼吸の苦しくなったアスランは強制的に快眠を妨げられるハメとなった。

「ぶふぅあっ…!!!ィ……キラっ何する…!ふぉご…もご…ふぅぐぉ……」

 

 語尾が聞き取りにくくなったのは、アスランの大声に慌てたキラが口元を力いっぱい押さえたからだ。そして必死の形相で「静かにして!黙って!」とジェスチャーで訴える。

 

 

「どうしたの?キラ」

 彼が驚くのも無理はない。キラはラクス達の万全のセキュリティーを全て破って、ここに到達してきているのだから。…その理由は、容易に想像がついた。

 

 

「アスラン……やっぱ、着替え貸して!」

「…………。そうだろうね………」

 

 アスランの視線が宙をさまよう。なんとまぁ…可愛らしい……いや!違った!扇情的な姿であることか!

 話によるとキラの実母にそっくりという綺麗な顔、長い髪が首もとでゆらゆらし、いつもより更に細っこくなった肩がまるまる露出している……コレは本当にラクス達の趣味なのか、はたまた自分への当てつけなのか次第に判らなくなってきたアスランだった。

 

 

「俺の部屋にあるの、何でも使って良いよ。あ…、そこの紙袋に新品あるから」

「うん……ありがとう」

 

 

 10分後、キラは再びアスランの元にやってきた。今にもずり落ちそうなTシャツが、思わず目を引く。

 

「……ごめん。も少し小さいサイズのTシャツとかなかったっけ?」

「探したけど、なかった。僕を置き去りにして自分だけ大っきくなるからだよ!」

「そんなこと言われてもね。それに今のキラはいつもより小さくなってるんだから…仕方がないよな。それにしたって、ホント早く何とかしなきゃね……」

 

 

 視線は更にあさっての方角をさまよった。アスランの私服は今のキラより二周りくらい大きくて……まぁ、おおかた想像はできていたけれど………。

 

 

「ついでに、ここに泊めて!」

「………そりゃ、そうだろうね………」

 

 万が一ラクス達に見つかりでもしたら、その時こそ最後だ。彼女たちの頭はイタズラ心と好奇心で100%埋まってしまうだろう。確かに朝が来れば同じことかも知れなかったが、張りつめた気持ちがたとえ一時でもほぐれるなら……。基本的にアスラン・ザラはキラ・ヤマトの親友であった。

 

 

 数時間後。恐怖の朝はやって来た。シングルのベッドで、久方ぶりに幸せそ〜に眠っていた二人を、芯からズタズタにするかのようなドス黒い怒りが襲ってきた。

 

 

「コレは…どういうコトか!説明してもらいましょうか!?アスラン・ザラッ!!!」

 

 

 真っ黒の煙がもうもうと立ち込める。瞳を最高にギラつかせて、女性二人はカンカンに怒っていた。さすがの息苦しさに思わず引いてしまう。

「どういうことかじゃないでしょう!キラは、苦しんでいたんです。それを救ってやることは当たり前のことでしょう!それよりも、どうしてあなた方がキラの心の痛みに気づいてあげられないんです!」

 

 

「問題はそこじゃないわっ!アスラン君………あなた…もしやとは思うけど、キラ君を食っちゃったんじゃないでしょうね?」

 

「………ハァ!!?」

 

 

 マリューの一言にアスランは固まった。いくらキラ(♀)にクラクラ来てたとは言え、自分は基本的に彼の親友なのだ。そう…基本的に。

 どうやら周りががやがやとうるさかったのだろう。キラが寝惚けタイムから覚醒したようだ。…とたん、ラクス達の姿(真っ黒オーラ付)が視界に入ったのか青ざめた。

 

「ゃっ!嫌だっ…戻りたくない!」

 

 そう叫んで、キラはアスランから離されまいと裾をぎゅっとつかむ。そしてアスランもキラを庇おうとして肩を抱き寄せた。しかし…それは美しい友情シーンであるはずが、なまじっかキラが女の子なだけにやたらめったら熱い抱擁に見えた。

 

 

「さ、キラ!そんな猛獣の元にいてはいけませんよ。いい子ですから、わたくしの元にお帰りなさいな」

 

 ラクスの爆弾発言。

「誰が猛獣ですか!誰がッ!俺がキラを襲うとでも言うんですか?」

 

「だって……状況だけ見れば誰だってそう思うわよ…ねぇ」

「ええ。本当に、アスランとの子供ができてしまってからでは、シャレになりませんわ…」

 

 

「……………」

 

 

 キラは震えていた。今度は怒りに震えていた。そして静かに…本当に静かに、割れていた。

 

「みんなの意地悪っ!どうして僕たちにだけ辛く当たるの!…だったら僕、いっそのこと本当にアスランとの子供を産んでやるッ!!!!!」

 

 

 まるで黄門様の印籠を見せられたかのように、場は静まった。キラはその隙にダッシュで自室を出ていく…涙の尾を引きながら。

 

「キラっ!どこへ…?」

 真っ先に気づいたのは腕の中から温もりが消えたアスラン。しかし、その視線もどこか集中力に欠けていた。

 

 

「一人になりたいの!もう、放っておいてくれ!!!」

 

 

 階下ではキラの涙声がひとしきり聞こえて……そして、カリダ・ヤマトが上がってきた。

「キラ……取り乱してたけど、何があったの?」

 

 言えなかった。言えるはずがなかった。あのキラが、一時的に錯乱してたとはいえ「アスランとの子供を産む」なんて叫んだなんて………。

 

「キラは、今…どこに?」

 アスラン・ザラは優秀な子供だった。そして、カリダ・ヤマトとの付き合いも長かった。

「一人になりたいって言うから、ちょっと頭を冷やしておいで、と、シャワーに誘ったのよ」

「……そう、ですか。いやちょっとここ二、三日急に女の子になっちゃったもんだから、その、服とか生活とかで思いつめてたらしくて……」

 

 アスラン・ザラは優秀な子供だった。そしてちょっぴりオトナになった彼は、この場の人間の全てを救った。

「……そうだったの。もう少し、あの子の気持ちを考えてあげるべきだったわねぇ。あの子だって普通の子供ですものね」

 

 

 そう!コーディネイターだとかナチュラルだとか関係ない!言外にそう言ってラクス達をたしなめると、カリダは「もう少しで朝食ができるから、降りてらっしゃい」と、笑顔を残して消えていった。

 

 

「良いお母様ね……」

「ええ。キラを育てた人は両方ともナチュラルですけど、いい人ですよ」

 

 アスランの言葉にいささかのトゲが認められたが、まぁ許容範囲としよう。

 

 

ふぇいず14へ→

言い訳v:ま…今回のお話は当然こうなるだろうということで、わりと楽に書けました。カリダママ最強ですよv

次回予告:キラ、狂喜乱舞→一転して自信喪失……。女体化の仕組みがいよいよ明かされる(元ネタはアレですよアレ)。同時にアスランはピンチ脱出!以降、彼はますますキラにびた〜〜〜〜〜っと貼り付くのであった……。次回、最終回です!宜しければ最後までお付き合い下さいませv

  ********************

お読み頂き有難うございました。ブラウザバックでお戻り下さい。