ふぇいず 10
「イテ……イテテテ………」 「ちょっと……もう少し優しく貼って下さいます?」
「………。まぁ…皆さんが悪いですね。……で、とばっちりを受けた俺が手当てしてあげてるんですから、少しはガマンして下さい」
今彼らは何をしているのかというと、お互いに湿布薬の貼りあいこをしているのである。さすがは人類史上最高のコーディネイター。クリーンヒットをする場所、力加減も最高レベルだ。逃げられる者などいなかったであろう。
「まぁ!今回は自分が正しかったからといって、かわいげのない言い方ですコト!」 「お褒めの言葉、ありがとう!ラクス。おあいにく様で、男が可愛いと言われたってちっとも嬉しくありませんからね!」
「キラだって、男の子でしたもの。それは同罪ですわ」
「今は、女の子ですから!女の子を可愛いと思って何が悪いんです!?」 立場が逆転して、アスランは勝ち誇ったようにラクスを見下した。
「おいおい。こっちも痛いんだ。手を止めない!」
嫌味の応酬を止めたのはバルトフェルド。一番安全圏にいたはずの彼も、キラの視界に入ってた、ただそれだけで餌食になっていた。
「はいはい。では人数分タオルを冷やしてきますからね。今日は静かにしてるんですよ。特に女性組!治るまでキラに手出しはしない!解りましたね!」
「えええーーーっ!せっかく今夜の可愛らしいスカートを用意してありますのに……」 「……………。そーいうのは却下です!あきらめなさい」
「ひどいですわ!ご自分が一番軽傷だからって!」
「………。どこが軽傷なんです!殴られたせいで頬が腫れて、転んだ拍子に捻挫までしてるのに」
「解りましたッ。今夜はあきらめましょう。でも…そうね、この傷が治りさえすればいいのですから…」
ピコッ!!!!!
再びぎらついてきたマリューの頭に、ピコピコハンマーが落ちてきた。彼女はイヤな顔をしてアスランを恨めしそうに睨みながら、小声で「チッ!」と悪態をついた。
「……聞こえてますよ」
「あ…あら!さすがは優秀なコーディネイター、とっても耳がいいのねぇ……」
「傷を増やしたいんですか?あなたはっ!もう!せっかく買い出しに行ってあげようと思っていたのに……」 「え?ホント?さすがは優秀なコーディネイター様です!ありがたいわぁ!ついでにケーキも買ってきてくれれば嬉しいのだけど……」
「マリューさん………そーいう褒め方やめて貰えます?それと、なにげに要求増えてるじゃないですか!」 「アスラン…わたくしも欲しいですわ、ケェキ!」
「……………。良いんですね?ではコレで休戦協定としましょう」
アスランは勝った。市販のケーキ一切れで買収できるとは安いもんだ。新しく買ったジャケットと財布を手に彼は上機嫌で出かけていった。
そして……居残り組(けが人ども)は、話をするどころか、傷を打ち身にうめいて結局何も手が出せなかったという………。
午後7時過ぎ、車の音とともにアスランが帰宅した。帰ってみると、ラクス達はまだうめいている。心の中でほのかな快哉を叫びながら彼女たちに声をかけた。
「動けます……?」 「え…ええ。何…とか……」
マリューがぎくしゃくと起き出した。カリダ・ヤマトはその間にテキパキと夕飯の準備を進めつつある。
「ボクも、何とか動けそうだ。手伝うよ」
「助かります、隊長。俺は、キラ見てきますから」
「あ……でも、キラは………」
心配そうな腹黒ラクスの一言に、アスランはぎらついた。
「原因はあなた方でしょう!今行ったら、今度こそ生きて帰れませんよ!俺が言うんだから、間違いないです。今夜は顔を合わせないことですね!」
「はい……お願い、します………」
キラの私室。ドアを軽くノックする音とともに、少しだけ中の様子を覗き込むアスランの姿があった。やはり思った通り、電気も付けずにベッドにうつ伏せになったまま、泣き疲れて寝込んでいたようだ。 相変わらずの幼馴染みに、軽く笑みをこぼして枕元に近づき、軽く揺すった。
「キラ…キラぁ、このまま寝ちゃうと身体冷えちゃうよ」
「う……うぅ〜……ん、ん………」
「ほら、起きて。寝るならちゃんと着替えて寝ないとダメだよ…」
何度か揺すると寝惚け眼のまま、ようやく起き出したようだ。ところがパッとアスランの顔を見て、サッと青ざめる。
「アスラン…その、ケガ………。もしかして当たっちゃった?」 「……!ああ、あの時弾みにね。そんなにひどい訳じゃないから」
ウソは言ってない、ウソは!マリューやラクスに比べれば、という話ではあるが。それでもキラはしゅんとなった。
「ご……ごめん」 「大丈夫だよ。キラのせいじゃないから」
コレもウソじゃない。勘違いしたのはマリューとラクスの方だ。だが、勘違いさせうる行動を取っていたのが自分たちだったと、全く気づいていないだけで……。
「キラ、ご飯食べる?お腹空いてるだろ?」
アスランが優しく問いかけるとキラは素直に「うん」と言ってうなずいた。
そして、連れだって食堂へ来てみると………、 「あれ?母さんラクス達は……」
「先に食べてて欲しいって。疲れてるからもう少し休むって、そう伝えてって言ってたわ。きっと後から来ると思うのだけど…」
「………そう」
さして気にするでもなく、キラの興味は別に移った。
「あ…!ケーキだ。どしたの?今日、誰かの誕生日?」 「そういうコトじゃないんだけど、俺が、キラと食べたくなったから」
まぁ、休戦協定の担保とは言えまい。そこのところは隠しておくに限る。
「アスランが?珍しいね。君が甘いもの欲しがるなんて……雨でも降るのかな?」 「あはは。…かもね。でも、食後にね」
懐かしい雰囲気が久しぶりに彼らの心を解きほぐした。カリダと、キラとアスランと。3人で食卓を囲んだのは4年ぶりくらいか?あの頃は月にいたけれど。ともかく、アスランは幸せだった。邪魔者がいない!という途轍もない幸せをかみしめていた。
キラもつかの間の幸せを楽しんでいた。何たって、今回は無理矢理スカートをはかされることなく夕食が食べられるのだから!ラクスが選ぶとどうしてもミニスカになってしまった、バルトフェルドから「見えてるぞ!ほぉら、見・え・て・る!」なんてからかわれることもないから!
男物のTシャツといつものズボンが女の子なキラにはちょっとだぶだぶだったが、この際気にならない。だって、必要以上に胸の気になるカットソーとかじゃないから!パンチラを気にしながら生活しなくていいから!
「………?なに?やっぱ何かおかしい?アスラン」
それでも、このお年頃のアスランのこと。今のキラとは身長が10pくらい違う。ま隣に座っていてはそれはどぉお〜〜〜しても、だぶだぶのTシャツからかいま見える豊かな胸が気になるわけで………。
「い…イヤ、おかしいって訳じゃないんだけど。キラ…もう少し小さいサイズのTシャツとか持ってない?」
するとキラがいたずらっ子のような目をしてアスランを見上げてきた。
「え?何?アスラン、気になるの?」
「やっ!その、気になるって訳じゃないんだけど…その……やっぱ、見えちゃって………」
アスラン・ザラはまたもやピンチを迎えていた。今度は何かって、女の子になったキラの豊かな胸が気になるって知られたら、今度こそ男の友情は修復不可能に違いない。うかつな一言で全てがひっくり返る…きわどい瀬戸際だ。
ところがキラはアスランの不謹慎な欲情に全く気づいていなかった。
「アスランも僕も世間では年頃って言われるもんね。気になるよね?アスランはどっちが好きなの?」
「………?どっちって?」
「普通サイズと巨乳。やっぱ大きいに越したことはない派?」
どっっかぁぁああ〜〜〜〜〜ん!!!!!
アスランの頭が遂に暴発した。言うに事欠いて一体ナニを言い出すのか、この幼馴染みは!
「ちょ……っ!キラ!そんなこと、どこから聞いてきたの!!?」
「ん〜…。だって、バルトフェルドさんが、いつも言ってたから。キョーミ無いって言っても、僕にマリューさんの胸に関するうんちくを教えてくれるんだもん。もう覚えちゃったよ」
まるでボケ老人のように同じ話を聞かされたらしく、キラはウンザリしたような表情でそう言った。実際、胸の大きさについて、さほどのこだわりはなかったようだ。
(全ての原因はバルトフェルド隊長かっ!!!)
その時は気の毒に思ったが、実際バルトフェルドも自業自得だったらしいことが判明して、アスランの心の中の軽い罪悪感は払拭できた。しかし、それとコレとは話が違う!
「どうしたの?アスラン……目、怖いよ……」
「ん〜!チョット………ね」
ここで一発釘を差しておく必要があるようだ。これ以上、キラに余計な情報を教え込まないで欲しい。たとえ冗談で言ったとしても、キラはそれに気づくことなく本気に受け取ってしまうことも多々あるのだから!
言い訳v:たまにはアスランにいい目を見させてあげないとね。そう、メル友はアスランファン(珍しい!)でもやっぱ、キラに「巨乳」のセリフは似合わないねぇ〜〜〜。あ…言わせたのは秋山か(脱兎!) 次回予告:アスラン割れる!しかし彼の種割れをダウンさせるとんでもない事実が発覚する。ピコピコハンマーが鳴り響く中、例によってまたキラの絶叫が!今度は一体何なのか? |
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