ベンツ社長
それは…たかが喫茶店に高級外車で通う純情社長と、そこで働くウェイトレスの恋物語



第5話

棚からぼた餅









ハイネはさすがに不安になってアスランに近づく。すると彼はいつになく震え
ていた。


「アスラン?」

「どうしようどうしようどうしよう………」


「…何が?」



「な…なんて声をかけたらいいんだろう」



…………………は?

ここ喫茶店なんですけど(普通じゃないけど)。

彼女は注文を取りに来ただけなんですけど(思いっきり萌え系衣装で)。





「何言ってんの。注文とりに来ただけでしょーが!」


「でも……でもでもっ」



アスランがぐずぐずするので、ハイネはキラに少し待ってくれと頼んだ。

「普通の茶店だと思えよ」


「……だって、彼女が………」



つまり…キラに嫌われたくないらしい。

たった2分でハイネはしびれを切らして、キラに注文を言った。


無論アスランに断りもなく。



「ごめん、とりあえずコーヒー二つね」

「はい、ご主人さま。すぐお持ちしますね」



さして驚くふうも見せずにキラは厨房へ行ってしまった。

その瞬間、アスランが正気に戻る。


「こらっ!何するんだ」


「何するって…お前さんがへたれて何も言えなかったから、とりあえずコーヒ
ー頼んだだけじゃないか」



「キ…キラちゃんと目があっただろ…」

「そりゃもちろん」


「俺より先に彼女に話しかけて!俺よりも先に彼女の笑顔をもらってぇえッ」





ペシペシ…ベシコン!



「へたれ変態が今さら何を言うんだ、バカモノ」

ハイネには、たかが茶店の店員だ。



「へたれ変態言うな!い…色々と計画があったのに………」


「あのな…アスラン?ここ茶店。彼女単なるウェイトレス」



「彼女がお前に惚れたらどうするんだ………」


そして社長は部下にデコピンされる。





「ありえねーから!」





アスランの額がほのかにピンク色に染まった頃、キラがコーヒーを運んできた。


「お待たせしましたにゃん。ご主人さま」

「あ、うん。ありがとう」



「……………」


遂にアスランは下を向いたまま、真っ赤になって何もできなくなってしまった。



(ぐはァ!なんかコレ……超ヤバくね?俺何気に崖っぷち?)


ハイネは真っ青になる。

何故かって?


目の前のアスランは、どこからどう見ても「役立たず」だ。


しかも、朝、会社にいるときよりさらに重傷だ。

やばい〜やばい〜〜と、試行錯誤を懲らし、ある賭に出ることにした。


つまり、帰り際にでも一言声をかけてもらおう作戦だ。しばらくいて社長をズ
ルズルと引きずりながら、出ようとするとキラが気づいてくれた。





「あ、行ってらっしゃいませだにゃん」


「ぇと、キラちゃん…だっけ?こいつ実はキラちゃんのファンでさ、午後から
の仕事頑張ってくれるように一言言ってくれるとすごく助かるんだけど…」



するとキラはおやすいご用ですとか言って、アスランに可愛らしく声をかけた。


「お昼からのお仕事も、頑張ってくださいだにゃん」





その瞬間、天変地異が起こったと誰もが思った。


アスランは急にむくりと起きあがり、ハイネに向かってこう言った。



「行くぞハイネ!今日の午後からは、会議が二つ、そして得意先との折衝があ
るんだッ」



ばびゅん!!!!!




あまりの早業に、道行く人々は局地的に竜巻が起こったと言い、しばらく噂にな
った。





「何なんだアリャ……」


一番驚愕したのは誰あろうハイネ・ヴェステンフルスだった。







ところが翌日、社長は朝から電池切れのように動かなかった。つぶやきの言葉
は「キラ〜キラ〜」に変わっている。


仕方ないからハイネはもう一度社長を連れて喫茶あしたばへ向かい、今日もコ
ーヒー代を払って、キラに一言かけてもらった。すると、アスランは異常なス
ピードで着実に売上を伸ばした。







社長が初めてキラと会ってから3日目。社長抜きの重要な会議が、談話室で持
たれるハメになる。



「このまま行くと役立たずならまだしも、完全に穀潰しです」

レイ・ザ・バレルの容赦ない表現。


「彼女に何とか頼み込めないものでしょうか?」

「毎日ここに来てくれって?無理だろ」



「でも、ハイネの話が本当なら彼女が一言声をかけるだけで、一日保つんです
よね〜〜〜」





ここのところどんな話もスムーズに進み、非常に調子がいい。

何より「社長が役に立」っている!←ここ最重要。



「彼女はあの店でどういった身分なんでしょうか」

レイが聞く。



「んん〜?えーと確かいとこと一緒にバイトとか言ってたけど…」


ハイネのうろ覚えの知識が、秘密会談に進展をもたらした。



「交渉の余地がないわけではありませんね」

「え?どーいうことよ?」


「この時期アルバイトと言うことは、高校生か学生さんです。バイトの期間は
通うとして、彼女のアルバイトが終わったらどうするんです?」





………………………………。無駄な沈黙がひたすら重かった。



「っじゃ、何?茶店のバイト終わったら、ここのバイト頼むとか?」


たった一言声をかけるために?

わざわざ?





「そうでもしなければ、社長はあのままボケ老人直行です」

それは…あまりにも簡単に想像がついた。


「色ボケ老人…」

ハイネのつぶやきにニコルがぷっと吹き出す。しかしそのバカバカしい話題こ
そ、当面の最重要課題であった。



「交渉しましょう!」

ニコルの一言で、方向が決まった。







そして今日も変わりばえのしないバイト生活が始まる。そう思っていたキラの
期待はいい方に裏切られた。


とある大企業の重役がベンツで乗り付け、キラに話があると言ってきた。





「そんな人と知り合いだっけ?」


カガリが不審がる。キラの通う学校はこれといってとくに、お嬢様お坊ちゃま
学校というわけではなかった。



「知らない。あ…あの金髪(←ハイネのこと。キラにとってはそういうカテゴ
リ)の人はここ1週間通ってくれてる人だけど……」


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言い訳v:マジで言い訳〜。日本人はニアミスが大好きなのです〜。次回でラストになります。もう少しお付き合い下さいませ。

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