ベンツ社長
それは…たかが喫茶店に高級外車で通う純情社長と、そこで働くウェイトレスの恋物語



第6話

押し合いへし合い








「私もついていこうか?」


カガリが気遣ってくれたが、ハイネはそう悪い人ではない。気さくで明るい人
だ。


もう一人の人は、いつもうつむいているのでキラにはほとんど印象がなか
った。



「ううん。いいよ別に。それに、客待たせるわけにはいかないから」


「ま…そ、だな」





キラとカガリが働きだしてからこの店は以前にもまして盛況ぶりを見せていて、
あまりのめまぐるしさに細かいことまで構っていられなかった。







「すみません突然お呼びだてしてしまって」


キラが個室に入ると、若草色の髪の人が名刺を差し出しながら挨拶してきた。

「初めまして。総合商社レノアのニコル・アマルフィといいます」



「ごめんねキラちゃん。急にこういうことになって。実は折り入って頼みたい
ことがあって、今日は来たんだよ」


何だろう?と思う。同時に、

(茶店のバイト以外の面倒ごとなら速効で断ってやる!タダでさえ学校の課題
する時間が減ってるんだから!)

とも考えていた。





「ど…どんな用ですか?」


「な…キラちゃん。俺と一緒にここんところ毎日通ってた奴、いるだろ?」



「……え?」


キラは全く覚えていなかった。それ以前に、キラを指名の客が多すぎて、とく
に強い印象もないかぎり、いちいち覚えていられない…というのか。





「覚えてない?」


「ぇ…え〜と………すみません。ほとんど…」



ハイネとニコルは心の中で同じことを思う。

((あ〜〜〜〜〜ぁ………))


意気込みはあるものの、いざ目の前にすると完全にへたれてしまうどこかの変
態さんは、彼女の心の片隅にも残っていないらしい。



(完全に、その他大勢だな。アスランの奴)



「いえ、いいんです。それでお話というのは、実は簡単なアルバイトを受けて
いただきた…」

「お断りしますっ」


そら来た!と言わんばかりにキラは自信満々元気よく答えた。その答えがニコ
ルを青ざめさせたとも知らずに。



「え?ダメかな?それともバイト掛け持ちしてるとか?」

「いえ、そういうことではないんですが…実はお恥ずかしい話………」



キラはことの真相を彼らに話した。そう言えば、指名客が二人減って、仕事が
少し楽になるかな…とか不謹慎なことを考えつつ。


事前にバイト代が支払われていて、拒否できなかったこと。

そして学校の課題をやる時間が正直欲しいこと。



そうしたら、意外な答えが返ってきた。





「キラさんじゃないとできないんです。一日5分でいいからお時間を空けてい
ただくわけには行きませんか?」


しかし!ニコルたちも必死である。何しろ、キラの一言には社運がかかってい
るのだから。



「今はその5分が惜しいんです」


だがニコルは食い下がった。今ここで引くわけには行かない。絶対に負けられ
ない戦いが、ここにあるのだ!



「バイト代弾みます!」


「……う゛………ッ」



引っかかった!と、ニコルは心の中でガッツポーズ。この際お金でも何でも積
んで、何とかしなければ、会社は潰れる。


多少の高額バイト料など、この際屁でもなかった。





「しかも、うちの社長に頑張ってくださいと、一言声をかけてくださるだけで
いいんです。服装は指定しません。時間も空いた時間でいいです。接触する必
要すらありません。行き帰りはこちらで送迎いたします」


「う゛ぅ〜〜〜〜〜〜〜〜……」



そして、ハイネの一言で全ては決まった。



「キラちゃん…じゃキラちゃんの課題を肩代わりしてでも、お願いしたいって
いったら?」

「喜んでお受けしましょう!」



「ありがとうございます〜〜〜。貴女は当社の救いの女神ですっ」

ニコルは涙を瀧のように流しながらキラに感謝した。しかし、その理由はキラ
には解らない。


「……は?社長さんに一言声をかけるだけでしょ?」

「ええ!たった一言声をかけるだけです」



「それで何か違うんですか?」


「大違いですよ!キラさん。ああ、本当に助かりますぅ〜〜〜」



「意味がサッパリ判らないんですけど…?」


「キラちゃん…まぁ来てみなって。来たら判るよ………ほぼ間違いなく」



「………は、ぁ…」







ことの真相は、翌日社長室で判明した。ニコルに案内され入るなり、ハイネの
連れの人がデスクであ然とキラを見つめていた。


「あ…ぁの……社長さん?」



キラはおずおずと声をかける。





「き………っ…キラ……ちゃ………」



いつもと違い彼は部屋の隅っこでうずくまっていなかった。

藍色の髪が白い肌に映えて、かなりの美男子だと判る。



そして大きく見開かれた瞳は少し暗めの青緑。





「きょ…今日、から……社長さんのこと応援しに来たんです。えと…お仕事、
大変だと思いますけど、頑張ってくださいね」


キラは世界が変わったと思った。

喫茶店で、いつもへたれていたあの印象の薄い人は、そのきれいな肌に涙を一
条光らせながら、世界で一番甘い笑い方をした。



「ありがとう。ありがとうキラちゃん………」


「…良かった……」





「俺…頑張るね!キラちゃんが応援してくれると、何でもできそうな気がするよ」



そして今までの態度が一転、社長はあり得ないほど的確に全ての指示を始めた。



<社長の指示が長いので、時間を32倍速高速再生中………>





「ぁの…ニコルさん……僕、もう…」


「ああごめんね。仕事内容ホントにこれだけだから。じゃ、ハイネに送らせるね」

「あ…はい」



キラが帰り際に、社長から声がかかった。


「キラちゃん……その、良かったら明日も………来て、くれないかな………」

キラはにこっと笑った。

その瞳には札束しか見えていなかったが、そんなことアスランは知るよしもない。



「明日も、また来ますね」


そして…キラのふところは日を追って裕福になっていった。







ちなみにその後、社長の純情恋物語はかなりの時間をかけて成就し、某大企業
の社長は社内大恋愛の末、めでたく結婚したことは長らく伝説として語り継が
れることとなった。



なぜならば。


ハイネ「っつ〜か、あんなへたれが結婚できるとは正直想像できなかったぜ」

ニコル「僕たちはキラさんにひたすら感謝ですよ」


レイ「とにかく…これで当社はとりあえず安泰だ。もう余計なことで神経をと
がらせずに済む」

ニコル「そうです。何年経ってもあのままですからねぇ。当てられちゃいますよ」



ハイネ「…ということは、アレだろ?社長に言いたいことがあれば、全部キラ
ちゃんを通せば、何だって聞いてくれるってことだろ?」


ニコル「しかも幸運なことに、キラさんが賢い人で本当に良かった!」


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言い訳v:あんまり長くするのも(笑)この辺でサクッと終わっちゃいます。お付き合いいただきありがとうございました。

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