ベンツ社長
それは…たかが喫茶店に高級外車で通う純情社長と、そこで働くウェイトレスの恋物語



第2話  Side Athrun

飛んで火にいる夏の虫








キラがネット喫茶の店員として働きだして1週間。

少し離れたとある大企業に衝撃が走っていた。


前日までバリバリ仕事をこなしていた敏腕社長が、ある日を境にまるでボケ老
人のようになってしまったのである。


声をかけてもブツブツと何やら独り言を言うばかり。部下に言われて、色んな
ところに移動はするのだが、こんな調子では全く役に立たない。





「一体どうしたと言うんだ、あのトリ頭は…」



イザークに間近で言われてもうわのそら。ひたすらあさっての方を見ながら、
ぼーっとする日が続いた。


日を追うごとにだんだん言葉がクリアーになっていくので数日放っておいたら、
どうやら「春の病気」らしい。


無論そう評したのはハイネであったが。





「春の病気?何ですかソレ…」


「ま〜一言で言うと、恋の病だな…」

「……………ハァ!!?」



「社長…お付き合いしている方でもいたんですか?」

まるでオソロシイものでも見るかのようにニコルが、容赦なくアスランを指さ
してはブルブル震えている。


「こんなへたれにそれは無理かと思いますが」

レイ・ザ・バレル。こちらも全く遠慮がない。





「っつ〜かな〜、声が小さくて聞き取りづらいんだが、どうも一目惚れっぽい
んだよなぁ〜」



「一目惚れ?」



このへたれが?

どこでそんな人を見初めたというのか?


第一そんなヒマなどいつあったというのか。





「…と言うより、目の前に社長いるんだから、直接聞けばいいじゃないですか」

レイの言うことは最もだった。今彼らは、社長を目の前にして、社長に関する
うわさ話を大声で喋っていたのだ。通常考えてこれはどうにもオカシイ。だが
1点だけこのオカシナ話が成立する要素があった。


それは…


「おい、アスラン?アスラ〜ン…」


「………ゎぃぃ……ぃた……なぁ……」

「アスランってばよ…」


「…やって………たら、いぃかな………」





ハイネがどんなに大声で叫ぼうが、いったんトリップしてしまった社長は、周
囲の声が耳に入っていなかったからだった。これはもう、いきなり最終手段に
出るしかない!



「彼女が見てるぜ」



「えぇッ?どこどこ?どこにいるの?俺のマィスゥイ〜トv」





ゴッ!!!!!



と、この世のものとは思えないほど鈍い音がした。





「何だハイネか。痛いじゃないか。急に来て急に殴るなんて」

「色ボケ春頭が!さっきからずぅ〜〜〜っといたわ!ついでに言うとニコルや
レイもずっとだ」


「ええっ!なんで教えてくれなかったんだ」



ガゴッ!!!





「てめぇが一人ボンノーに染まりきってて気づかなかっただけだろうが!」


「ウソだ!」

ハイネは腕組みをして溜息をついた。





「あのな、俺らがお前さんを騙してどーするよ?それでなんか得すんの?」


「………ないな」



「だったらアスラン、出かけるぞ」


「へ?あ…そう。気を付け………へぶぅッ!」



「てめーが来なきゃ何の意味もないだろうが!このアンポンタン!」



いきなり現実に覚醒した(させられた)アスランには何のことだかサッパリ判
らない。





「俺が行くの?どこへ?何しに…?」


確かこのあとの予定なんか特になかったはずだが…とアスランは指折り数える。



「お目当ての彼女を探しに行くぞ!」

「えっvもう判ったのか〜さっすがハイネ〜〜〜v頼れる部…ぶふぅおッッ!」





「今すぐ医者に診てもらう必要がありそうだな」


「俺は正常だ!」



周囲は怒りがピークに達する。


「なら普通に仕事しろ!色ボケ頭を今すぐ治すんだ」







………ということで、か〜な〜り強引に3人は出かけることになった。


何故3人かって?

それはもちろん、こんなことに全く興味のない仕事人間が約一名、丁
重に辞退したからに決まっていた。







30分後。アスランたちは何故か首都高速にいた。



「ホンット〜〜〜にここから見えたっていうんですかぁ?」





ニコルの疑念は無理もない。ここは高速道路。時速100qで走る車の中から、
ただ一人の女性を見つける…そんなことどう考えたって普通の神経では考えら
れない話だった。


「見たんだ!ここから。あの時、疲れててぼーっと外を見てたら急に視界に飛
び込んできて…それがすっごいかわいくて………」

社長はそれっきり言葉をつぐむ。



「…で、寝ても覚めても煩悩から離れなかったってわけですか、ここんところ
の色ボケの原因は」


「誰が色ボケだ!衝撃だったんだ!」



「はいはい二人とも〜。…んで?どこら辺だ?見たのは…」


「もうちょっと先。そこのPAの手前くらい」


「…じゃ、とりあえず車の異常ということにしてそこに停めますか」





そして、少し進んで、車を停め、後続の車から判りやすいように表示をして3
人は車から降りた。



「………アスラン?」

ニコルがアスランを白眼視するまで、さほど時間はかからなかった。


「ん?」



「ここから一体何が見えるっていうんです?」





しかし社長の機嫌はすこぶる良かった。

「見えるじゃないか!ほら、あそこ」


常人には騙されているようにしか見えなかった。アスランの指さす先には街の
ネオンがきらびやかに見えるだけ。到底人の姿など視認できる距離ではなかっ
た。





「ここから、あの街まで一体どれだけあると思うんです!」



「あぁ〜〜〜やっぱあの子だぁ〜。今日も可愛いなぁ……」


「アンタの視力はバケモノか!」



ニコルがアスランをなじっているあいだに、ハイネは地図で場所を確認してい
た。



「アーキハッバラタウン?」

「どう考えてもここから10q以上はありますよ?」


「それが何だと言うんだ!俺の初恋に障害など何もな………ふぐぉぉおぉッ!!!!!」


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言い訳v:はい。もうバレバレですね。あの街です(笑)タイトルもパクリです。でもって今回のサブタイは全部ことわざか四字熟語。

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