34567キリ番リクエスト

正義と自由

−第3話−

「アリスです…。アリス・ザラ………」

 そう。それが入学届けにクソ親父に書かれた名前だった。合っている部分なんて頭文字のAしかないじゃないか!

 親父をボコにしたあとで、母親にしみじみと言われた。


「これでも妥協したほうなのよ………」

 と。

 何日も浮かれながら息子の偽名を考えているアホ親父が簡単に想像できて、もはや聞く気にもなれなかった。


 そして言われた。

「あなたも早く父親から離れた方がいいわ」

 確かに。確かにそれは思う。痛烈に実感する。あの家にいると、気が狂うか朱に染まるかどちらかしかないような気がした。そんななか、自分を保ち続けていられる母親を、正直凄いと思った。


 だから条件を呑むことにしたのだ。たとえ3年間女装するハメになっても、あの家で親父のオモチャにされるよりマシだと思ったからだ。簡単に説明すると、

その1:16歳までは女装して女の子として生活(←譲れない萌えポイント)すること。

その2:16歳までに父親の理想に合う(←重要ポイント)だろう可愛らし〜い女の子(←最重要ポイントらしい)に巡りあい、お嫁さん(←たぶん俺の身代わりだ…)にすること。

などなど。


 バカバカしい!と突っぱねることもできたが、そうもいかない事態になった。もし卒業までにステキなお嬢様(父談)を連れてこないと、俺は本格的に某繁華街で暮らさなければならなくなるらしい。

 それは…本気で嫌だった。

 自信も自慢もないけれど、ちょん切られるのだけはカンベンして欲しかったからだ。



「カノ●ミ●のようなナイスバディ……」

「いい加減しつこいですよ!」

「カ●ウ●カの乳に抱かれたい…。みんなあんなになると思ってたのに、レノアのはそれほど大きくはならな………←家庭内『タイタニック』が実行されたようです。


「そのタワゴトも聞き飽きました。所詮手術とナマは違うのよ。そしてこの胸はアスランとわたくし自身のために存在するのです」

 お待ち下さい母上!ナマって何ですか!ナマって!!

「何!じゃぁ、アスランは触りたい放題だというのか!!」


「「論点はそこじゃありませんッ!!!!!」」



 ちなみにちなみに、母に今度はコーディネイターで妹を…と提案してみたら悪鬼のような表情でキッパリハッキリ断られてしまった。理由は2つ。

 1つは、どうもこの母親、自分のナイスプロポーションを崩したくないらしい。

「妊娠線が残るなんてみっともなくて、水着が着られなくなるじゃないの」

 スミマセン。その歳で水着着てんですか!


 そしてもう一つは、

「もし妹ができたとしましょう。あの父親があなたの妹にナニをするか……言わなくても判るでしょう?しかもその妹も、あの父親の血を受け継ぐ子供なのよ?」


 それから数時間、俺はあまりの寒さに凍ったまま戻らなかったらしい。仕方なかったから俺は親(母親の妥協修正案)の言い分を飲んだ。人生で最大の屈辱だった。





 つい、あさっての方を向き笑いながら涙を流していたら、その子に不審がられてしまった。

「ごめんね………こっちはこっちで…色々あって………」

「偶然だね〜僕たちきっと似たような境遇なんだよ」


 果たして自分と似たような境遇が世の中に何例あるか知らなかったが、おそらく彼女は誤解している。しかし、さすがに自分のことを説明して誤解を解く気にはなれなかった。

 下手に解こうとしたら確実に変態扱いされる。これ以上目立ちたくなかった。



「友達になれるかも。僕はキラ。キラ・ヤマト。よろしく、アリス」

 彼女の笑顔に釣られ、ごく自然に握手を交わした。自分より若干細い彼女の指がひどく女の子らしくて。後になって初めて気がついた。この時俺が彼女に対して可愛いと思っていたことに。



 この時は、何もかもが初めてだった。全寮制の学校も。一人暮らしも。知らない街も。そして人生初の公式女の子ライフも(これは全てあのアホ親父のせいだ)。

 最初の1ヶ月間は、怒濤のように時間が過ぎて、結局後から何も思い出せなくなってしまった。唯一、キラと知り合えた入学式を除いて。





 出会ってから1ヶ月もすると、大体1日のスケジュールが頭に入ってくる。ああ、今日の授業面倒だから出たくないなとか、出席取らないからサボっても良いかなとか。

 学園内の施設についても大体頭に入った。人通りの少ない、少しだけ足を伸ばしても安心できる場所とか、フラガ先生のお気に入りの場所とか、よく通る場所と時間とか。どうも、入学式以来顔を覚えられて、今でも時々ディナーに誘ってくることがある。


(天地がひっくり返っても、絶対行かないから!)


 うっかりついていくとやばいことになりそうだ。そして何より、学生寮−それはもはや寮と言うよりひとつのマンションだったが−での、キラの部屋と、彼女がよく行く場所とか。自然と頭に入れる癖がついてしまった。

 実際、彼女とは気が合うようで助かっている。自分はそんなに社交的な方じゃないから。教室での席も隣だし、なんだかんだ言って一緒に行動することが多くなっていった。

 彼女の前だと特に、女の子らしくとか、そう言うことを強く意識しなくて済む。ある種の気楽さがあって、彼女と付き合うために女性向けのファッション誌を定期購読したり、などという煩わしさと無縁でいられた。


 そうやってのほほんと流れていく中で、俺たちにとってちょっとした事件が持ち上がった。


第4話へ→
*Freedom*What does it mean that they said Freedom and Justice?I understand it is my life and my heartful girlfreiend!!*Justice*
いいわけv:レノアが何故子供の性別を男にしたのか…という回でした(笑)アスランはハサミ持って追いかけてくる父親との生活よりも、女装生活24時を選んだのです。
次回予告:アスランが親に泣き付く理由。

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