34567キリ番リクエスト

正義と自由

−第16話−

「ごめんね、アリス。そして………みんな」

「キラ、いいから」

「仕方ないわよ。キラだって疲れてたと思うし。みんな去年以上に気合いが入りまくっていたしね」


 キラを囲んで、級友達の優しい視線が彼女を包む。げほごほと、辛そうな咳が出る度、キラはすまなそうにしょぼんとなった。

「挨拶は無事済んだけど、今年はアリスだけだったから、他の学年達の強豪に勝てるとは思えないし」


「でもキラ、大丈夫よ。来年もあるから。来年こそ、言い思い出を残しましょ、ね?」

「……ぅん…ありがと………ね」

「お昼になるわね。お粥でも作ってきてあげるわ」

「うん、ごめん…」


「その代わり、お薬ちゃんと飲むのよ」

「ぅえぇ〜」

「その為にアリスについててもらうんだから」



 キラは心底嫌そうな表情をする。それもそのはず、胃腸も弱っていたせいで、抗生物質ではなく非常に苦い漢方薬だったからだ。

「あの薬嫌いぃ〜。もっと苦くないのはないの?」

「お腹が痛くなるよ?それでもいいの?」

 アスランがその話に介入する。


「もっと嫌!」

「じゃぁ、頑張って飲むしかないね」

「むぅう〜〜〜〜〜」


「ごめんなさいねアリス。後を頼めるかしら?」

「いいですよ。キラの風邪が治るまで、付いてますから」

 そしてその場にいた女の子達は、部屋からいなくなった。すぐ外で男の子を追い払う声まで聞こえてくる。キラが未だ極端な男嫌いだからだった。急に静かになった部屋で、キラはアスランに詫びる。



「ごめんね。みんなにも迷惑かけて」

「かけたことのない人間って、いる?」

「いないと思うけど…」

「じゃぁ、それでいいと思うよ。人間だから」


「………ぅん」



 風邪で少し頬が赤くなって、不安そうに見つめる瞳は、申し訳ないが可愛らしかった。ひたいに乗せたタオルを取り替えていると、お粥が届いて、それを食べた後薬と言うことになった。

「………やっぱ、やだ」


「わがまま言わないの」

「苦いんだもん…」

「良薬口に苦しって、言うでしょ」


「アリスが直接飲ませてくれれば……」

「キラはそんなに嫌われたい?」

「それはもっとヤダ」



 アスランは観念して近くにおいていた銀紙を空ける。

「飲んだらいいものあるよ」

「何それ?」

「伝統的な漢方薬の必需品」


 キラには訳が分からない。銀紙の端からのぞいた、びよんびよん揺れる色の悪いものに目が釘付けになった。

「……なんか気持ち悪いんだけど」

「勿体ないなぁ〜。お・い・し・い・のに」



 そう、これこそがキラに薬を飲ませる秘密兵器だった。

「食べ物なの?」

「そv苦いお薬の味を消してくれる、甘いお菓子」

 瞬間的にキラの瞳が輝いた。

「そんな便利なのあるんだ!食べる食べるっ」


「じゃぁ、先に薬を飲まないとね〜」

「………どうしても、ダメ?」

「上目づかいでおねだりしてもダメ。キラが今より苦しくなりたいんだったら話は別だけど」



 そしてキラはすぐにヤケになった。

「飲みますっ!飲めばいいんでしょ飲めば!」

 そして、湯飲みになみなみと注がれた熱く苦い液体を一気に飲み干す。

「熱い!苦い!もぉ〜〜ヤダ!」


「よく出来ましたv」

 アスランは羊羹に似た形のそれを一口大に切り、爪楊枝を突き刺しキラに差し出す。ついでにお菓子にキスを贈ることを忘れずに。

「……………」


「食べる?」

「アリスぅ〜っ!!!アリスとの間接キスだっ」

 実際、アスランが音だけさせたことをキラは知らない。


「はぃ、どうぞ」

 ひょい、ぱく!ん〜〜もぐもぐv

「アレ?あんま甘くないね、これ」

「うん」

「分量合ってる?」

「合ってると思うよ。もらい物だけど」


「羊羹より柔らかいんですけど?」

「そりゃそうだよ。ういろうなんだから」

「ういろう?ナンデスカそれは?」

「苦い薬を飲んだ後の口直し。これは嘘じゃないよ。もともとそういうお菓子なんだ」

「ふぅ〜ん…」



「もう一つ食べる?」

「うん…まだ少し口が苦い」

「はい」

 キラは再び上目づかい攻撃をしかけてきた。彼女の考えてることが半分以上判って、アスランは溜息をついてみせる。


「これにも!」

「キラ欲張りすぎ」

「いいじゃん風邪引いてるときくらい〜。アリスのケチ」

「女の子はケチでなくっちゃぁ」

「な・ん・で!」

「だって素敵な人と出会って結婚したら、ほとんどが主婦になるんだよ?」


「ならないもん!あ…なるけどならない………ってか僕アリスの主婦になるもん!」

 アスランの悪戯っぽい目が光る。

「じゃぁ、とにかくキラは主婦にはなりたいんだ?」

「悔しいけど男の人並みに稼ぐなんて出来ないもん」


「家計のやりくりは予算との戦いだよ」

 などとえらそうに言ってはいるが、この部分…ほとんどは母レノアの受け売りであった。

「ちゃんとやるもん。できるもん!アリスのために頑張るもんっ」



 素直に受け入れることは出来ないものの、アスランは男としては嬉しかった。こんなふうに、一生懸命になっている姿を、本当に可愛いと感じる。

「大丈夫。キラなら本当にいい人が現れるよ」

「アリスがいい!アリスじゃダメなの?」

「可能性を捨てちゃダメだよ。たとえば私と、私におんなじ…でも外見だけ男な人が現れたらキラはどうする?」


「それは……悩むかも、知れないけど……今ならハッキリアリスを取るよ」

 アスランは心の中でガッツポーズをした。

(脈あるかも!)



 約1年前と比べ、キラの心はゆっくりと揺れているようだった。彼女にとって時間以上の薬はなさそうだった。


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*Freedom*What does it mean that they said Freedom and Justice?I understand it is my life and my heartful girlfreiend!!*Justice*
いいわけv:ういろうは、外郎(ういろう)さんという人が日本に伝えた、お薬の後に食べるお菓子です。
次回予告:久っ々に変態親父登場。

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