34567キリ番リクエスト
−第11話−
キラの機嫌がいいときとか、一人でいても大丈夫そうなときにアスランは例によって街でリフレッシュするときがある。薄化粧を落とし、髪をくくって着替えて…男に戻って街を歩く時間は唯一心が安らぐ時間になっていた。 いつものクラスの人たちでさえ、気兼ねすることはない。誰もがアスランに気づかない。キラでさえ気づかないのだから。 あれから少し時間が経ち、背丈も伸びはじめてきたし顔つきも変わり始めた。自分ではよく判らないが、写真と鏡を見比べると、確かに違ってきている。その分、変身には便利だが学園生活はやっかいになる。 (そろそろ裏声の練習とか?しなきゃなんないのかな……) 考えるたびに気が滅入った。どこの男がこんなことばかりに気を取られているというのだろうか。学校では始終気を張り通しだし、キラはめげずにアスランを女の子だと思い込んでモーションかけてくるし。 (俺のせいだけどさ…これってホントにますますバレたらヤバいじゃん………) この調子で2年半、だまし通せるのかなと思うとあまりの先の長さにウンザリしてきた。 「おっと、この駅だ」 車内アナウンスにびっくりして、そそくさと電車を降りる。キラの知らない駅、知らない街。今日はここで人と待ち合わせていた。 5分ほど待っていると目当ての人の姿が見えてきた。 「済みません。待たれましたか?」 「いや、今着いたところ」 「じゃ、俺の下宿で良いですか?汚いとこですけど」 「構わないよ」 彼と道中は見事に無言で歩き、下宿とかいう部屋に入ると、確かにお世辞にも片づけているとは言えない部屋だった。 「あ、その辺押しのけて座ってください」 「そう言うわけにもいかんだろ!せめて見えない場所にしまうとか何とかしないのか」 「彼女の来ない男の一人暮らしってったら、こんなもんでしょ」 「俺は掃除くらいしてる」 「あ〜キラ来ますもんね、あなたの部屋」 嘘ではなかったが、本当のことでもなかった。例の豊富な予算で、部屋には週2回は掃除のおばさんが入る。ちなみにキラがアスランの部屋に来ることもしょっちゅうだが、シンの言うように男として彼女に応対は出来ない。 彼女は未だに盛大な勘違い中だった。 (くっそぉ!お前に俺の悲哀が判ってたまるか!) 「はぃ?何です?」 「いや、何でもない。俺もお茶で良いって言っただけ」 「そうですか」 「それよりもシン、この部屋少し片づけさせてもらって良いか?足の踏み場くらいは欲しい」 「いーですよ〜、別に雑誌踏んで行っちゃっても」 「そういうわけに行くか!片づけるぞ!じゃないと話はしない」 「えぇ〜〜」 「後で君が思うとおりに片づければいいだろう!」 「チッ!今度の彼氏は口うるさいなぁ…小舅みたいだ」 「うるさいな!ほら、やるぞ」 「へぃへい!」 シンと駅で待ち合わせて、彼の下宿で話をする予定だった。キラの今の彼氏として。しかしさすがにやもめの汚さに辟易し、とりあえず二人で2時間ほど片づけ大会と化した。 「ゴミくらい自分で捨てなさい」 「こんなにあったっけ〜」 「ゴミ袋にしっかり8袋。次の普通ゴミの日は?」 「え〜〜〜とぉ…明日?明後日?」 バタバタとシンが近くを探す。埒が明きそうにないのでアスランは玄関から外に出て、ゴミ出し場の看板を確かめてきた。 「シン!今から出すぞ」 「ぇえ〜っ」 「明日じゃないか!どうせお前のことだから、今やらないとずっと出さないだろう!今ここで、この袋全部出して、ふたを閉めておくぞ」 しばらくシンはぶつくさ言っていたが、アスランがサッサとゴミを持って出かけたので、仕方なくシンも袋を持って外に出た。 「ほら、ここに入れる!そしてもう1往復!」 「うるさい人だなぁ…」 「出さないお前が悪い!大体部屋を小ぎれいに使えば、あんな悪臭のするものなんか出なかったはずだ!」 アスランはシンに向かってわめく。 それもそのはず。カビの生えた食品は当たり前。弁当のトレイから、カップラーメンの容器、袋などが散乱し、その上に服を投げ出し………つもり積もってキノコまで生えていたからだ。 「1年前までは、すっごくきれいだったんですよー」 「信じられんッ」 「嘘じゃないですから!」 「大方掃除していたのはキラだったろう」 「ま…そうとも言いますけど」 予定していた話の前に、アスランの雷がシンを直撃した。午後10時を回っても肝心の話には入れなかった。 「明日が日曜で良かったですよねぇ」 「そぉいう問題じゃぁない!!!」 台所からアスランがシンを睨みつけるようにふり向く。 「ぷっ」 「お前が笑えた義理か!手伝えぇ!本来の家主がサボるな〜!」 シンが笑ったのにも理由がある。アスランは、ズボンの上にレインコートを履き、上はかっぽう着にピンクのゴム手袋をして洗剤のついたブラシを握っている。頭には三角巾、顔には花粉症用マスクと今や完全防備姿だったからだ。 「遅くなりますよぉ」 「うるさい!カビの胞子を吸いながら話なんて出来るか!見ろ!この黒カビの海を!掃除だ〜掃除が先だ!!!」 「今夜は泊まっても良いですよ」 さすがに遅くなり、シンが言う。 「悪いがそのつもりだ。学園の寮は申告でもない限り、午後7時には門扉が閉まる」 「ベッドひとつしかないんで、あまりくっつかないでくださいよ」 「ブランケットを貸せ。俺は床でいい」 「けどぉ…」 「お前のためじゃぁない。自分のために掃除をしているんだ」 物をどける度に出てくるカビとの戦いは夜明け前まで続いた。 第12話へ→ *Freedom*What does it mean that they said Freedom and Justice?I understand it is my life and my heartful girlfreiend!!*Justice* いいわけv:シンは、アスランとキラが同じ学校にいるとか、そう言うことは全く興味ありません。実はあんまり会話はかみ合っていなかったりするんです。ちなみにゴミ出しまでに2時間、それからはずっと部屋の掃除をしております。 次回予告:更なる怒号と掃除………そして初めて明かされる真実! |
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