それでもアスラン愛してる!!?     Happy Birthday Athrun 2009企画様献上SS

サプライズは、お好き?



<第3話その2 恋は暴走特急フードフェスタ編>

 10月初旬、イベントがあるからと誘われて、キラは初めてデートらしいデートをするのだと思った。そのイベントもいわゆる秋のフードフェスタで、よくある地産地消を謳った地元の特産物販売とか、要するに呈のいい店の宣伝兼新作発表の場。

 場所は繁華街だし、誘惑は多いし、二人で食べ歩けばカロリー摂取とダイエットとデートがいっぺんに出来る一石<三>鳥だと、キラはほくそ笑んでいた。



 いや、途中までは本当にデートらしいデートで、確かにキラの目論見通り財布の中の閑古鳥がぴーぴー鳴かないうちに結構お腹がふくれてきた。どっちみちウロウロ歩いているんだし、食後の運動もかねてアレックスと歩けばちょうど良いと満足していた。





 ところがなにやらおかしいなと感じ始めたのは、午後2時を過ぎたあたりからか。簡単な会場案内図のチラシを片手に、アレックスは財布の中の補助券の数を気にし始めた。そう、夕方に行われる福引きが補助券5枚で1回引けるのだ。

「地元の福引きなんだから、あんまり期待しない方がいいんじゃない?」
「どうせせいぜい当たっても、お米5キロとか、地元商店街で使える3千円割引券とか、それぐらいが関の山だよ。欲しいけどああいうのってほとんどが残念賞ポケティだよね〜」

 キラは笑う。半年付き合ってきたけど、金銭感覚もそんなに自分と違わないし一応何とか自慢できる彼氏だと思う。たまに完全お一人様ワールドに入られては、キラにさえどうにも出来ないときがあるけれど。そんなときは適当に無視しておけば、時間が経てばちゃんと戻ってくるし、問題はないと思っていた。





「せっかく引けるんだから欲しいじゃないか。お米5キロも捨てがたいし、洗剤セットも気になる」

 彼はチラシに書いてある、賞品一覧を食い入るように見ながら話す。実はこれも目当てで来たから、と。


「あ、なら僕、年末大掃除応援セット欲しい!アレックスは?月末誕生日でしょ?そうだ、僕の補助券で当たったら全部アレックスにあげるよ〜」

 キラは笑顔全開でそう言った。一応彼の誕生日に合わせて何か買おうかな、とは思っていたが、現実はちょっぴり厳しかった。だから、この福引きで良い物が当たれば全部アレックスにあげると約束した。

 元は自分の財布から出費した買い食い代だから、結果よければ問題ないよね、と笑うとアレックスもそれなら遠慮なく貰おうかなと喜んだ。



「ありがとうキラ!うんと良い物当ててね」
「OK〜〜」

 やっぱりアレックスとここに来てよかったとキラは思った。二人の財布に溜まっている補助券を合わせれば、結構引ける。キラ一人では何度も何度も引けるなんて事はなかっただろうから。



 趣味と言うほどではないが、顔に似合わず懸賞好きの彼にかなり影響されてきている。日用品などの現実的な懸賞は実生活に役に立つし、もしこれから彼と一緒に…なんて事になってもこの癖は結構美味しい。








 そして、運命の夕方。アレックスとキラは、人だかりができはじめていたイベント本部に来ていた。


「うっわ!もうすっごい並んでるね!お米と洗濯ギフトとお店の半額券とテレビとパソコンセット先に当てられたらどうしよう〜〜〜」

「大丈夫なんじゃないかな?先に並んでる人に参加賞のポケットティッシュを沢山当てて貰ったら。チャンスが巡ってくるかも」

「あ〜〜〜でもその考えもあるか〜〜〜」


 きゅっと握った彼女の手のひらから、わくわくドキドキ感が伝わってくる。超高級ホテルのラウンジで二人っきりプラスお持ち帰り、などというえぐいドラマのようなデートにしなくてよかったと<アレックス>は思った。

 地元のフードフェスタ、ここなら自分も彼女も気兼ねなく存分に楽しめる。





「たくさん当たると良いね。そうだ、軽自動車とか当てたらキラにあげるよ」
「え!?本当?それ嬉しい〜!僕の免許IDカード代わりだったんだよね〜」

「俺はあの車1台あればいいから」


「あ〜〜〜でも、そんなにうまくいくかな〜」



 順番待ちをするキラの瞳は本当にきらきらと綺麗で、生活するということに対する逞しさが眩しく見えた。当たり前のように数千万の価値で着飾ったまま、ふわふわと現実感がない人なんかより余程魅力的に見える。





 そして運命の順番はやって来た。ステージ上に5台ある、いわゆる<ガラポン>を、二人はそれぞれの台でウキウキと引いた。途中何度かキラがお目当ての景品を引いたようで、そのたびにアレックスにほくほくで報告してくれた。


 そのちょっと童心に返ったようなはしゃぎっぷりが、アレックスの心を心底キュンキュンさせる。


(あ〜〜〜〜〜この顔〜〜写真欲しい…壁紙にしたい……待ち受けにしたい…)

などと一人(内心)大喜びでいい加減にガラポンを回していたら、隣でコトリと小さな音がして周囲が騒然と騒ぎ出した。



「え……………」


 キラが呆然としている。その横で司会者は彼女の手を取り、「おめでとうございます」と祝福の声をかけた。


「キラ………それ特等……」



 そう、キラが引いたのは福引きの憧れ<特等>だった。しかもその内容たるや、要するにリゾート旅行券(しかもペア)な訳で。それが判ったとたんキラはこの世で最高の笑顔を見せてくれた。


「今!特等の豪華リゾート6泊7日ペア旅行券、当たりました〜〜〜!」

「特等……?うそ………」



 何も知らない司会者によってどんどんシナリオは作られていく。

「お名前を伺って良いですか?」
「キラです。キラ・ヤマトです」


「当選されたのはヤマトさんです!おめでとうございます〜!」

 キラが渡された目録を片手にアレックスの方を向いたことで、司会者も彼をキラの隣に並ばせる。会場はいやがうえにも盛り上がり、ほぼ全ての視線は二人に集中した。


「素敵な彼ですね〜。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

 キラの隣の彼はにっこりした笑顔で名乗った。



「ええ、アスラン・ザラです」


 その瞬間。キラは小さく、「え………?」と言い、スタッフ及び来場者は驚愕した。





「ありがとうキラ!最高のプレゼントを当ててくれて。このチケットで誕生日を一緒に過ごそう!」


 偶然なのか意図的なのか、アスランの発言はしっかりマイクに拾われて、地元ローカルのTV中継という素敵なオマケにより、半ば公共放送となってしまった。



「………!え〜ザラさん、おめでとうございます!ぜひ素敵な彼女とご旅行を楽しんでください」

 何とか頭を元に戻した司会の機転によって、二人は無事にステージを降りられたのだが。ステージ裏ですぐ問題は発生した。





「え?アレックス?え!?違うって…」


 二人で当てた福引きの商品の交換がまだ残っていたが、アスランはスタッフの一人になにやらメモを渡し、キラを引っ張って市営駐車場の彼の車に戻りシートに座らせた。








「とにかく、説明してくれる?」


「黙ってたことなら、ごめん…」

「レノア機械工業さんのサラリーマンだって………」

 彼の話の内容から、開発部にでも勤めているのかな…ぐらいにしか思っていなかった。確かめなかったキラに非がないわけではないのだが、通常誰もそこまで気に止めないだろう。

「それは嘘じゃない」
 ただ、副社長なだけで。


「ザラ……………って……」

「言って引かれるのが嫌だった。一目惚れは本当なんだ。何度も見かけて…どうしても、付き合いたくて………」


 キラはおぼろげに理解する。確かに、最初から<世界のザラグループの跡継ぎ>の立場で来られたら、中小企業にやっとこコネで就職させてもらったような自分は確実に引いていた。



「でも、僕………最初から知っていれば……」

「親や周りから見合い話がうるさかったんだ。けど、政略結婚みたいな事は絶対に嫌で…キラと付き合いだしてから、キラしか見えなくなって…」


 アスランの痛いほどの視線がキラに突き刺さる。もういい大人になったのだから一生を共にする人ぐらい、自分の力で得たかった…と。そこまで親や周りに介入されたくなかった。





「だから………だから、その……………俺の当てたお米10キロ分と5万円分のお食事券をあげるから、キラと一緒に旅行に行かせてくださいッ!!!!!」


「…………………は?」



「ごめん…これだけしか当たらなくて………」
「いや、そういう事じゃなくって…」

「まさか他に………行きたい人、が………いる、とか?」
 真剣なアスランの顔は、言いながらどんどん真っ青になっていった。



「そういう事じゃなくって、何で………僕なの、かな………って」

 他にもっと素敵な人は沢山いるだろうに。キラよりももっと彼に釣り合う人が。



「好きになるのに理由なんて無い!付き合いだして、もっと好きになった。素のキラを見て、肩を張らずに付き合えると思った」

 まだ呆然とするキラに、アスランはいずれは君との結婚を考えている、と言った。このイベントでどうしても特等を当てたかった。キラと一緒に旅行に行くと、公の場で宣言して、うるさ方を牽制するつもりだった。出来れば既成事実もぜひとも欲しい。



「だから、君と結婚する権利を俺の誕生日に、下さい」

 しばらく間が空いた。





「僕が、断れるわけ…無いじゃないか」



 車の助手席に座ったままのキラに顔を近づけても、彼女はもう逃げようとしなかった。そっとくちづけると、キラの頬を熱い水滴が伝っていった。


(おわり〜)
第3話その1 秋のお祭り編へ→

お読み頂きありがとうございました。ブラウザバックでお戻り下さい。