それでもアスラン愛してる!!? Happy Birthday Athrun 2009企画様献上SS
サプライズは、お好き?
<第3話その1 恋は暴走特急・秋のお祭り編>
その日のアレックスはキラから見てもいつも以上におかしかった。 「縁日って、あまり来たことがなかったの?」 10月初め。日曜日だったこの日は地元の神社のお祭りがあったので、キラは彼をそこに誘っていたのだ。縁日なら、物欲の低い彼でもある程度楽しめるだろうし、それに多少懐の寒いキラでも何とかなる下算段で。 最初は珍しそうに手を繋いでゆっくり回っていたが、昼前頃からアレックスはなんだかそわそわし始めた。焦っているというのか、誰かから逃げているというのか?とにかくそんな感じだった。 「また何かやばいことでもしたの?」 よく判らないからストレートに聞くと、アレックスは本気で頭上に?マークを浮かべまくる。 「仕事の時間があるとか?」 「大丈夫。今日は日曜だからね」 「………。そっか…そ、だよね」 だからといって納得できるような感情ではなかったが、とにかくキラはアレックスに付いていきながらも、何とか縁日を楽しもうとした。どうせお一人様ワールドに入ってしまったら、アレックスはどうにもならない。 まぁ、人というものは<良くて七癖>というし、放置しておいても特段害悪はない癖だったから今まで気に止めなかった。 けれども、それも時間の経過と共に気のせいとは思えなくなってきて。 アレックスを後ろから追いかけてきているような人を意識し、どう考えても追われているように感じ、それに気付いた彼は全力で逃げるべく奔走し始めた。 「ちょっとアレックス〜!絶対おかしいよ。君なにやらかしたの?」 「何もしてない!チッ!この大事なときに……」 「僕は君が時々判らなくなるよぉ」 するとぐりんと振り向いてアレックスは真顔でキラに詰め寄った。あの綺麗な顔がやたら近い。キラは知らず頬を染めた。 「俺はもちろん君が好き。キラは?」 「ぅえ?あ……好き………だけど?」 好きでなければこんな人と付き合っていない。だが、そのキラの答えを聞いたアレックスは、「よし判ったァ!!!!!」と、またもや意味不明の言葉を残し、彼女の手を引きメインステージに走った。 「ちょっとここで待ってて!」 「ちょ…?アレックスー???」 アレックスにしては珍しくキラをそこに放り出して、向かったのはまず何かのエントリー。そしてあれよあれよと言う間にステージ上で福引きのガラポンを何度か回し………どうやら特等を引き当てたらしい。それはこれまで見たこともない笑顔付きガッツポーズで、言われなくてもよぉ〜く判った。 「おめでとうございます!特等、リゾートホテルに泊まる1泊二日温泉堪能ペア旅行券です〜〜〜〜〜」 司会の町内会長の言葉でキラはやっとアレックスの悪巧みを知った。 「旅行?温泉?ペア???」 この3つの単語でなんだかオトナな予感がするのは、キラがそれ相応に年を取ったからだろうか?少なくともご幼少の頃ほど純粋に喜べなかった。だってアレックスはどう見ても当てた目録をぴらぴら振りながら、満開の笑顔でこちらを見つめている。 「ありがとうございます〜!キラ〜〜〜っ当てたよぉおおお!これでハネムーン行こうwwwww」 見事に段階を数ステップすっ飛ばし、周囲の誰にでも聞こえるような大声で宣言した彼氏を、キラはその場で殴り飛ばした。が、キラの後ろから聞こえてきたセリフに、彼女は愕然とする。 「やぁあっと見つけたぞアァスラァン!」 「もう逃がさないからなアスラン!」 「………………アスラン???誰……?」 その後、彼を追いかけてきたスーツ姿の人たちと合流し、キラは真実の全てを知った。 「僕をからかってたの?」 「違う!本気だからっ」 視線から逃げるように入ったレトロな喫茶店の中、キラの目の前にいるのは、一介のサラリーマンのアレックス・ディノではなくて、<世界のザラグループの跡継ぎ>だった。 両頬にモミジマークを幾重にもつけたアスランは、彼女の手をしっかと握り込みながらいっそ気持ち悪いほど真剣に迫る。後ろで腕組みをしているスーツ姿の金銀コンビ(たぶん彼の部下だ)の視線が怖い。 アスランはそんな彼らを気持ちがいいほど無視して<彼女への弁解>に必死だった。 「誕生日だからって言われて、やっと気が付いて。でも、無理して高い物買って欲しくなかったし………だから、だから安上がりで俺たちにピッタリの方法で最高のプレゼントが欲しかったんだ」 「意味わからない!」 「やっと…本当に欲しいものが見つかったんだ。誕生日を俺と一緒に過ごしてください!物ではなくて君と過ごす時間を下さい」 TVドラマとかならここはサプライズに感激するシーンかも知れない。けれどキラはどこか素直になれなかった。 「だったら何で隠さずに最初から言ってくれなかったの!」 「言ったらサプライズにならないじゃないか」 いや、それを言われれば間違ってはいないのだが。 「別にそこにこだわる必要ないでしょ」 「ある!この旅行券とともに俺は正々堂々と君と結ばれるんだ!こうやってみんなの前で公言したし、誰に後ろ指を指されることもない!と言うわけで月末は休むから!」 一見彼女への真摯な愛情だけのように見えるが、よくよく言われたことを斟酌するとキラへやましいことをする気満々だ。アスランは堂々と既成事実が欲しい、と言ってるのである。 「ちょっと待てよアスラン。月末は平日だろ?」 いちおうカレンダーを確認してみる。見る限り土日祝日ではない。 「貴様…締めで忙しいということを判った上での所行だろうな?」 「穴埋めは覚悟の上だ」 その場の雰囲気にキラはなんとなく流され、結局アスランの目論見通り<誕生日婚前サプライズ旅行>に行くはめになった。 「ごめん。騙すつもりは、無かったんだけど……」 温泉宿に備え付けの薄っぺらいロゴ入り浴衣を着て、仲居の余計な気遣いがふんだんに盛り込まれた<ごゆっくりオトナの夜をお楽しみ下さいと言わんばかりの布団>の上で、いつになく弁解モードの彼をキラはまじまじと見上げる。当人達はどうであれ、端から見ると本気で雰囲気台無しだ。 「どうしても失敗したくなかった。普通の恋愛が、したかったんだ……」 「振り返ってみると結構普通じゃなかったような気もするけど…」 確かに好きじゃなきゃ、ここまで付き合っていない。判ってて、ここに来たりはしない。 「立場じゃなくて、俺個人を好きになって欲しかった。総帥夫人じゃなくて、俺は自分だけのお嫁さんが欲しかったんだ…だから…」 「うん…多分そんなことだろうなぁとは思った」 きっとみんな本当の彼を知ったら、立場に目がくらみ、振り回されるだろうから。 「キラ……」 「好きじゃなきゃ、きっと誘われても来なかったよ」 キラはほわりと微笑んで、彼の唇にそっとくちづけた。目の前の彼は、人生の中で一番幸せそうな笑顔と、ちょっとだけ大人な経験を彼女にくれた。 (おわり〜) 第3話その2 フードフェスタ編へ→ |
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