第8話
鼻歌を歌いながら荷物を詰める姿がある。
そしてそれをもの珍しそうに眺める姿があった…。暑さの落ちついてきた室内にコーヒーの香りがふわっと薫る。
「気持ちは判りますけど、その鼻歌は何とかなりませんか?」
「なぜです?ラクス。だってこれからぁ〜、俺とキラのスゥイ〜ト♪ホ〜ムのぉ〜準……」
歌は突然止み、張本人は壁に激突していた。鼻血の筋が壁紙に2本のラインをかたどっていく。
怒りに染まったキラは、肩で息をしていた。
「ラクス!やっぱやめようよ……気持ち悪いよこのヘンタイ………」 「ご安心なさい、キラ。それはわたくしが半日で解決してさし上げます!ええ、キラのためですもの」
「そういうコトじゃなくってさぁ…。何で僕まで引っ越さなきゃイケナイの〜!」
むくれて頬をリスのようにふくらませるキラ。
「……………」 「……?ラクス?ラクス…?」
無反応なラクスに急に不安になって、キラは声をかけたり、目の前で手をひらひらさせたりしてみる。ややあって、ラクスはようやく正気に戻った。
「か…っ……可愛らしいですわッキラ!ああやっぱり、あんなへたれヘンタイに美味しく頂かれてしまったのは迂闊でした〜〜」
「ラクス〜〜〜」
一時夢の世界にトリップしかけたラクスをカクカクと揺らして、キラは彼女を現実に戻すことに成功した。
「ああ出来ることならわたくしだって、あのおばかさんのみを追い出してしまうことが出来たらどんなにか…と思いますわ。でもそれは出来ませんわよね」
アスランがおかしくなったのは、キラが女の子になってからであって、キチンと男の子だった時には普通に親友だったからだ。
「………うん」
「静かな環境…ということになると、ほら、やっぱキラ君が引っ越しするしかないでしょう。ここは、楽しいでしょうけれど賑やかすぎるものね」
「マリューさん…」
「でも、アスランに黙ってキラだけお引っ越し、ということになれば、アスランは命をかけてでもあなたを捜し出すでしょうね…」 にこにこ顔でうんうんと首をたてに振る人物が約一名いるが、場にそぐわないそれはさりげなくスルーされる。
「………あ……!」
結果は目に見えていた。キラの制御が効くうちはまだマシなのかも知れなかった。もう離さないよ〜…などと言いながら本当に一日中べったりくっついているだろう。その可能性に思い至って背筋が寒くなった。
「キィラぁあ〜!引っ越ししたら今度こそ二人っきりで、ゆ〜っくりじぃ〜っくり愛をはぐくもうね〜〜〜♪」
「……………。やっぱり気持ち悪いよォ〜このヘンタイ〜〜〜」
言い訳v:オカシイ…進めば進むほどアスランが壊れてゆく。こんなつもりじゃなかったのに。 次回予告:アスラン大暴走。周囲の思惑なんのその!ZAFTで鍛えた経験を駆使し、懲りずにキラに迫り続ける。呆れるマリューの横でラクスの瞳が黒く光った! |
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