第22話
キラの額に冷や汗が出てきた。呼べど叫べどアスランからの返事が来ないのである。頬を叩いてもダメ、身体を揺らしてもダメ。正直、困っていた。 仕方がないから、腕を掴んでそのまま玄関の外に出す。 そして頭の上から思いきりバケツの水をひっくり返した。 「キ…キ、ラ……」 「だって、アスラン固まったまま返事しないんだもん…」 はて?反応が妙だ、とキラは思った。 「え、ぁあ……そうだったか?…ぁ……いや、何でもないんだ。ごめん」 笑いながら部屋の中に入ろうとするから、慌てて止めた。 「ちょっと待ってよ。濡れるから玄関で着替えてよ…」 それでもアスランは不自然なくらいさわやかに笑っている。 「あ…ごめんね。着替え持ってきてくれるかな?キラ」 それからずっとそんな調子で、素直すぎるくらいすんなり着替え、かといってキラにちょっかいをかけてこようともせず、問題のダブルベッドにどちらが寝るかで一悶着起こし、触らないならという条件付で一緒に寝ることになった。 翌朝、起きてからもずっとアスランはおかしかった。 いや確かに今までもそれなりにおかしかったが、今のはちょっとそんなのじゃない。何かこう、底知れぬ不安がぬぐいきれないたぐいのものだ。 「あ、キラちょっと待っててね。俺、ゴミ出してくるから」 「あぁああのさ、僕も行くから……」 「キラはダメだよ!大人しくしとかないと、お腹痛くなっちゃうからね」 重そうなゴミ袋をひょいひょいかかえ、アスランはふわふわした感じで玄関を出ていく。 「……………。……なんか…気持ち悪い……」 しばらく呆然としていたキラだったが、コーヒーを飲みかけていたことを思い出し、グラニュー糖を追加して、一口二口飲んだところで再び扉が開いた。 「あ、ねぇアスラ〜ン!やっぱ僕もなんか手伝うよ………って!」 「おはようございますvキラ!」 久しぶりに会った主人の元へハロが喜んで飛び込んでゆく。 「ラクスっ!」 キラもラクスに飛び込んでいった……正確には、別の意味で泣きついた。 「ラクスっラクス!あぁぁああのね、なんか昨日からアスランがヘンなんだよ」 「え?アスランがオカシイのはいつものことでは……」 「そんなんじゃない!そんなんじゃないんだ。なんかこう、取れかけてるネジが全てぶっ飛んだみたいに」 「まぁ!それはいけませんわね。つまり、腑抜けになってしまったのですね」 「そうそうそうそう!そんな感じ」 「こんな事だとは思ってはいましたがあのへたれさん…。頬の一つでも叩いておやりなさいな」 「それもうやったよ……」 「やはり、根性をたたき直さねばならないようですわねぇ」 そう言って、ラクスはその繊細な両手をキラの頬に添える。キラは久しぶりに男の子な気分になってちょっと嬉しくなった。 さして抵抗も見せずにされるがままになってるところに、アスランの悲壮な声が乱入してきた。 「ララ…ラ、ラクスっ!!!キラに何してるんですかっ!その前になんであなたがここにいるんです?」 「あら!キラを不安がらせるような腑抜けさんから、キラを取り返そうとしているところですわ!メールにそう書きましたでしょう?」 「キラを返してください!」 「何か弁解でもおありならうかがいましょう」 そしてアスランは、部屋から追い出された。数時間後、その部屋に一人の訪問客が現れた。 「ミリアリア!」 第23話へ→ 言い訳v:はい。この回が「この設定でしか出てこないディアッカのセリフ」のフラグです。キラは気づいてないんですが、気持ちがアスランへとシフトしていっております。 |
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