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番外 にゃんこべや

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猫ちゃんも、にんげんの古くからも友だちです。

でも、少しだけお願いがあります。




「ぼくたちは、恋をするんだ」
「それは可愛い子どもを産んで、次の世に送り出すため。エッチは痛くてちょっと泣いちゃうけど、でも…恋をするんだ」


「大人になるって、どういうことかな?」
「お母さんみたいになれるかな?」

 子どもは子どもなりにいっしょうけんめい考えます。





 でも、ある日突然大きな大きな人間がやってきて、怖い顔をするのです。
「あ〜あ、また子どもを産んでる」
「どうするの?飼えないよ」
「もらい手いないからなぁ…」

 大人たちは眉をしかめて話しています。

 話し終わると子どもの方へ近づいてきました。

(なんだろう?ちょっと怖いな。遊んでくれるのかな??)
 子どもたちは新しいいのちをえたばかりで、この世界のことに興味がつきません。





 でも、おおきな怖い顔をした大人はこう言って手をさしのべてくれました。
「保健所につれて行けばいいよ」


「ねぇお母さん、ホケンジョって、なぁに?」
「おともだち、たくさんいるかなぁ?」
「また、遊べるよね?」

 お母さんはわからないと言いました。でも5分後、子どもたちはある悲しいことに気づいたのです。





「お母さんがいない!」
「おかあさん、どこ?」
「暗いよ、寒いよ。地面が揺れるよ……。怖いよ、たすけてお母さん」

 子どもたちの願いはお母さんには届きませんでした。子どもたちはダンボールという箱に入れられて、車でどこかへ運ばれているのです。どこへ行くかもわかりません。
 ただ、ひとつだけ確かなことは……………優しいお母さんがいない……ただそれだけです。





 地面が揺れるのも止み、ふわっとした感触に戸惑っていると、にんげんたちがしゃべっている声が聞こえました。でも、なんて言ってるのかは、わかりません。猫の子どもたちにはにんげんの言葉は難しすぎます。


 少しして、光が見えました。知らないべつの人間のおじさんが子どもたちを連れていきます。広場にでると知らない猫たちがたくさんいました。別の子どもたちもいます。
「おともだちに、なれるかなぁ?」
 子どもたちはお友だちに寄っていきました。ときには仲良くなれる子もいたので、遊び相手にはことかきません。床が冷たくて、広場以外には出られないけれど、毎日ごはんだってもらえます。ただ、毎日広場を移動しなければならないことだけが不思議でたまりませんでした。







 ある日、いつもご飯をくれるおじさんがやってきて、子どもたちを暗い部屋に入れました。
「ちゃんとバルブを閉めて。危ないからな」
 にんげんの言うことはほんとうによくわかりません。部屋はどこにも隙間がないから、お友だちがいてもよく見えません。


「みゃぁ!」
 子どもはお友だちを呼びました。
「みぃ!みぃ〜!」
 きょうだいは、お母さんを呼びました。こんな時、お母さんならすぐに駆けつけてくれて、助けてくれるかも知れません。





 けれども、何度叫んでもお母さんは来てくれませんでした。どこからか小さく空気の漏れる音が聞こえてきたのは、覚えています。でも、どれだけ息をしても苦しくて仕方がないのです。

どうして?
いままで、こんなことなかったのに。


 大きく口をあけて、いっしょうけんめい息をするんだけど、ひどく苦しくなるばかりで、そのうち頭がくらくらしてきました。目の前が、ぼーっとなってきてさっきまでちゃんとしていた意識がとおのいていきます。



おかあさん!
どうして?
くるしいよ、おかあさんたすけて!





 それきり子どもたちは、意識をうしなって、そのまま呼吸も、心臓も止まってしまいました。


 人間たちがやってきて次の処置をしていきます。子どもたちやほかの仲間たちには見向きもしません。子どもたちが気がついたのは、それからまもなくのことでした。

 困ったことになったのです。
 自分のからだを見下ろしています。さっきまで自分のからだだったものは、くたりと横たわっていて動きません。どうにかして戻りたいと思うのですが、何度ためしても自分のからだには戻れませんでした。
(どうしよう。おかあさんに会えないよ)


 お友だちだった子供たちも大人の猫たちも、同じように自分のからだには戻れなくなっていました。



 そのうち、気がついたら知らない猫や犬のたましいがやってきて、子どもたちにほんとうのことを教えてくれたのです。

自分たちは殺されてしまったこと。
にんげんたちの一方的な都合だったこと。
もう二度とお母さんに会えないこと。

そして、このあと、自分たちの身体だったものは焼かれて骨になってしまうこと。


「うそだ!」
 子どもたちは叫びました。
「おじさんは、毎日ご飯をくれたんだよ。わるい人なんかじゃあるもんか!」

 たましいだけになってしまったせんぱいたちは、かなしそうな顔をして首を横にふりました。

「ここは保健所といって、捨てられた要らないなかまがたくさん来るところなんだ。1週間は引き取り手をさがすけど、だれも来なかったら、殺されてしまうんだ」



 子どもたちは自分の気持ちをどうやっていいかわかりませんでした。





ぼくたちは……要らない子なの?
いっしょうけんめい、この世界のこと学ぼうと思ったけど、もう出来ないの?

ぼくたちは、大人になっちゃいけないの?


大人になるって、どういうことかなぁ?

お母さんは優しかったんだ。毎日お乳をくれて遊んでくれて、良いことといけないことを教えてくれた。だから大好き!
にんげんは、こわい顔をする人もいたけど、毎日僕たちのことを見に来てくれてご飯とお水をくれたよ。



でも、僕たちは裏切られた。
信じちゃ、いけなかったの?
なにを信じれば良かったの?

わかんないよ。わかんないよ!

きっと僕たちのあとの部屋にいたお友だちも殺されてしまうんだね。
大人になるということを知らないまま。





 お母さんは恋をしたって言ってた。だから僕たちが生まれてきたんだよって。

 でも、僕たちはもうお母さんのそばには戻れないんだ。にんげんが、要らない子だって言うんだ。



 恋なんて、しなきゃ良かったね。お母さん。
 僕たちがいなくなって、悲しんでるよね?お母さん…。


 いっそ、子供の産めないからだだったら……………良かったのにね……。


お母さん、大人になりたかった。この世界のこともっと知りたかった。
僕たちも、お母さんぐらいに大人になって、恋をするってこと知りたかった……………。





 今度は、もっと幸せに生きられるところに、生まれてきたいな。僕たちが願うのは、そんな小さなことなんだよ。







 にんげんのかたへ、お願いがあります。

 僕たちは、恋をしちゃうんです。エッチは楽しいlことなんかじゃないけど、子どもを産んで遺さなきゃいけないって、それはきっと遺伝子のどこかで知ってるんだ。


 だから、できるなら僕たちをお部屋の中だけで育ててください。
 それができないなら、愛されずにこの世を去ってしまう子どもたちが出来ないからだにして下さい。

 それは本当はとてもかなしいことだけど、仕方がないんです。
 僕たちは生後数週間で殺されました。

 同じ目に遭うお友だちを見るのは、もう………辛いです。



だから………子どもを望まないのなら、赤ちゃんの出来ないからだにしてください。おねがいします。 


* ご静読ありがとうございました。不妊手術などの未普及によって子どもが出来ては、保健所などで殺処分されるいのちが後を絶ちません。

* 
猫の完全室内飼養や、交配期の完全隔離などの手段が執れず、また子どもも望まれないのであれば不妊手術をお願いします。

* 
保健所や動物愛護センターは引き取ったいのちを生涯飼い続けてくれるところではありません。里親譲渡などを行っているところもまだまだ少ないです。大抵のところでは約1週間程度で殺処分されてしまいます。捨て子も迷子も、純血種もミックスもまったく差別されません。

* ほとんどの自治体が
金銭的困窮から炭酸ガス処分を行っています。これはいわゆる<窒息死>です。一度に大量の酸素を必要とする大型の子は比較的早く気を失いますが、ごく少量で良い小型の子や子どもなどはかなり長時間もがきます。どっちにしても苦しむことに変わりはありません。

* 人間の不手際、知識のなさから望まれないいのちは生まれてしまいます。かなしいことですが、成猫に不妊手術を行うことで将来の沢山のいのちを無駄に殺すことがなくなります。
出産制限に対する正しい知識と言動が採れないのであれば、子どもの出来ない身体にしてあげて下さい



※その子が本当に一生愛する子どもなら、迷子になって困る前にぜひ鑑札を!猫ちゃんなら迷子札を※

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