オーブの自分の執務室で、カガリは呆れ果てたような顔をして、キラをまじまじと見た。


「全く!こんな子供だましに見事に引っかかってくれるものだな…」

「だから言ったじゃない」



 思い出すのはあの戦争中。カガリがアスランに何気なく言った言葉。

<コーディネイターでもバカはバカ!それはしょうがないよ>

 それを今まざまざと実感する羽目になろうとは、よもや想像すらしていなかった。



「けど…本当に大丈夫なのかキラ?通信画面を見る限り、アスラン餓えまくってるぞ」

「うん。1年お預けを喰らわせたからね。間違いなく餓え男になってるだろうね。だからさカガリ、僕にも考えがあるんだ」


 キラの考えた罠、それは。





主な夫と書いて主夫!しゅふ!

最終話   幸せと不幸は同時にやってくる!





 数日後死にものぐるいでオーブに帰ってきたアスランは、早速恋人に不平不満を漏らした。

「なんなんだキラ!この50pの距離はッ!!!」


「ちゃんと再会できたから良いじゃない!アスラン」

「良くない!良くない良くない全然良くないッ!!!!!」


 アスランが手を伸ばせば、服を掴まれまいとしてキラが巧妙に逃げる。両者の間には天の川よろしくベランダとベランダの隙間が立ちはだかっていた。

 そう、キラはアスランの待ってる部屋の、隣の部屋からアプローチをかけたのだ。



「逃げるなキラ!俺は、キラが居なくなってからずっと捜していたんだぞっ心配したんだぞっ」

「僕もちゃんとアスランのこと気になってたよ」


「お前がいつ帰ってきても良いように、あれから血の滲むような精進を重ねたんだ。俺に全てを任せろ!家事から育児から町内会の雑用まで完璧にこなしてみせる」

「それは頼もしいなぁ」


「胎教から育児サークルまで選定、シミュレートと体験まで済ませてある。子どもが学校に通うようになってからも、積極的に学校行事やPTAに参加したいと思ってる」

 キラでなくても考える。ここまで先を越して言われたら、本気で引く!だが今キラの目の前にいるアスランは、マジもマジ全て超マジなのである。





「アスラン」

「何だ」


「僕もね、アスランのこと大好きだよ。でもねアスランよく考えてよ。子どもが出来るってことはさ、僕の協力がないと無理なんだよ?」


「……?」

 はた…と、アスランの動きが止まる。



「あのね、お願いがあるの。僕ね、やさしく…して欲しいの」

 キラの小さな言葉は、この時確実にアスランの心臓を貫いた。



「ずっと…嫌………だった?」


「性急なのが嫌。もぅなんて言ったらいいかなぁ?僕もちゃんと好きなんだから、自信持って欲しい」


「……………解ったよ…」

 その返事にキラはとても満足して、ベランダ越しにキラの部屋のキーを渡した。





 1分もしないうちに、キラは部屋の中でぎゅっと抱きしめられていた。


「1年ぶり…か?キラ」

「………ぅん…」


「苦しかったら言ってくれ。もう二度とキラに逃げられるのはごめんだ。ノイローゼになりそうだった」

「そんな大げさな」


 コーディネイターのくせに精神疾患だなんて…。



「大げさじゃない。俺、キラなしじゃ絶対生きていけないから…」

「アスランはバカだなぁ」

「俺はバカなんだよ。しょうがないんだよ」





 再会を祝福するキスをして、そのまま一つしかないベッドになだれ込んで、キラが練習を重ねてきたアノ結果に不平を漏らしつつ、それでもアスランはキラから遠慮のない叫びを2回も聞けたことにとても満足した。


 身体が疲れで気だるい。力が入らないまま、だらだらと口腔内をひたすらくすぐるようなキスをした。キラが僅かに顔を動かすたびに、幸せそうに頬を染めているのが見える。


「ね、アスラン」

 ちょっと離れた隙にキラはアスランを呼ぶ。

「ん?」


「僕………今のキスが一番好き…」

「え…?」


「いちばん、すき………」

 たどたどしい言い方は途中でとぎれ、キラはアスランの胸にそっと頬を寄せて再び眠りについた。



「俺も…。ずっと言えなかったけど、キラのこの匂いが好きなんだ」

 全身で自分を許してくれた直後の、このほわんほわんとした女の子独特の匂いが好き。それも物心付いた頃からずっと一緒に育ってきた、心底安心できる相手の匂いが。

 今、自分を信頼しきって身体を預けてくれる大好きな彼女の閉じられた瞳、そのまぶたにそっとくちづけを落として眠りについた。





 その後、確かにアスランがかなり大人しく普通の生活を送れるようになり、行政府内で密かに通達されていた迷惑防止条例も自然消滅した頃、二人に送られてきた手紙にアスランが絶叫し、キラが容赦なく殴り倒すという事件が起きた。


「うるさいアスラン!手紙くらい静かに読めないの?君はッ」

「だって!キラも見て見ろよ!何なんだコレは!一体何が!どうなって!!こんなバカな話になってるんだ!!!!!」


「カガリが幸せだって言うから良いじゃん別に!」

「許せん許せん!断じて許せんッ!!!コレじゃぁイザークが俺の義兄になるじゃないか!」



「朝から耳元で怒鳴るの止めてくれる?アスラン…。いいよ、そんなに嫌なら僕一人で出席するから」

「それは断じて駄目だ」

「隣にラクスいてくれるから良いもん」

「もっと駄目だ!」


「一緒に行くなら静かにしててよ?テレビ中継までされる式典で、赤っ恥だけは絶対に嫌!」

「……………わか…った…」



「アスランが僕のこと好きって言ってくれる限り、僕はこうして傍にいるよ。アスランは、それじゃダメなのかなぁ?」


「………駄目じゃない…嬉しい、すごく」



「ねぇアスラン、僕の好きなあのキスをして」

「わかった…」



 アスランに自分の唇を占領させることで、キラは姉の幸せをそっと後押しした。

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