桜を継ぐ者

後編



 全てを悟り、自信に満ちた気迫で、アスランはラクスを見据えた。


「ありがとうラクス。俺は…玉座を手に入れる」



「ただし!もしあなたが玉座にふさわしくないと判断すれば、わたくしがキラ様から巫女たる地位を奪います」


「ラクス!」



「そう驚くこともないでしょう。わたくしは代々続く神官長の娘……男になってキラ様を奪うことなど造作もないことです」


 そう言って、ラクスは念押しした。強烈な強迫観念。自国の惨状を見すえなさいと彼女は言う。


 確かに、猫たちが葉巻をくわえながらカンフー映画を撮っていたり、海水浴場で水着姿を堪能する野鳥たちの姿は、いささか不自然だ。

 羽に覆われた肌にサンオイルを塗って、翼を器用に使ってビーチバレーを楽しんでいたりするのだ。





「ラクス…!あなたは……」


「わたくし…キラ様が好きですの。この国の玉座にもいられないへたれさんから、キラ様のお命を救いたいと思うほどに、ね」

 では、ごきげんよう。いつものように一方的な挨拶のみを残して、ラクスはこの部屋を去った。



「冗談じゃない!キラは…渡せるかっ」


 どうしても、頬が染まった。満開の桜のような微笑み。思わず組み敷きたくなるようなナイスプロポーション…思い返すたびに体の芯が疼くのを我慢できない。

 銭湯の番台に座った、巨乳のねずみなどどうでも良かった。



「あなたが器でないときは、わたくしがキラ様を奪いますからね」

 ラクスの言葉がストッパーとなって、アスランを苦しめる。



「キラ…あんなに可愛いのに……」

 視線が斜め下に集中する。そこには何の変哲もないベッドが置かれていた。



(いかん!我慢だっ俺!とりあえず…清く正しいお付き合いからだ!お友達から…)



 そうは言ったものの、実際キラと友達になるのにほとんど時間はかからなかった。これほどに話しやすく、そばにいて安心できる人はいなかった。

 やはりラクスの言うとおり、自分とキラとは惹かれあっているからなのか…と、時々苦笑することさえあるくらいに。





「へぇ、で…どうなるの?」

 キラが身を乗り出して話に乗ってきている。そろそろ自分にも焦りが出てきてしまい、かいつまんでキラに話をしてしまっているのだが、どうやら彼女にはおとぎ話かなにかにしか理解できていない。



「…で、家臣に言いくるめられた弟が、彼女を騙して連れてくるんだけど、彼女はそれがいやで逃げてしまうんだ」


「うん、それで?」



 キラはわくわくしている。さすがにこの状態で話を折るわけにも行かない。


「宰相に言われて、上の王子は彼女を探すために旅に出るんだ」



「面白そうだね〜。で、上の王子が彼女を見つけたら、弟とけんかになるんだね。それで、玉座をかけた争いが始まる。それで、弟は兄に負けちゃうんだ」


「いや…そこまでは……」

 なまじっか話が自分のことだけに、アスランは時々口ごもる。



「だって結果が決まってないとロープレにならないし…あ、でも待てよ……マルチエンディングという手があるか!ありがとうアスラン!それで、物語考えてみるっ」


「キラ…?」

 伸ばしかけた腕が宙をさまよう。記憶がないキラには、夢物語でしかなかったようだ。アスランは早まったのではないかと自分を責める。だが。



(キラ…時間が、ないんだ……)



 こちらの世界でキラと出会ってから早2ヶ月。さすがに本国のことが気になって仕方がなかった。巫女がここにいる限り、日に日に弱まっていく父王の権力。魔力はなきに等しいが、そうなれば国は荒れる。



 しかし…しかしだ。


<RPG作る君ver.2.06>



 彼女の自宅で…キラの部屋で…彼女の机の上に置かれたこれが現実だった。


(なにかひとつでもいいから思い出してくれ…。これは、ゲームのネタじゃないんだ……)



 アスランはどうにもならない事態に、頭を抱えた。





 ところが、数日のうちに事態は急展開を迎えることになる。


「アスラン!アスランッ!デスクの調子がおかしいんだ。見てくれない?」


「接続は?ちゃんとできてる?接触不良とかじゃ、ないよね?」

「それは大丈夫。でも、プログラムの不具合でもないみたいなんだ」



「ウィルスの可能性は?」

「この間プログラムの全チェックをしてみたんだけど、全然問題なくって…。中の細かい基盤とか配線とか、苦手なんだ。下手にいじって壊したくない」



「いいよ。今日で良い?」

「うん!ありがとうvアスラン大好き!」


 キラが笑って、肩をぽんと軽く叩いていく。学校の教室の中、アスランは思いもかけないピンチに見舞われた。



(我慢だ…我慢しろっていったろ!息子ぉうッ!)



 そうだ。危機一髪で「へたれ」にさらに「変態」とラクスの評価が増えるところだった。





 さすがにやばくなってきたので、昼休憩に校舎の屋上に避難した。すると間もなく、長年見慣れた色が視界に入ってくる。

「どうかしましたか?へたれさん」


「うるさいな…」



「キラ様が思うように落とせないので、焦っているんですね」

「そんなこと…」


「あなたではありません。息子さんのほうです」

 アスランは息を呑んだ。



「大丈夫です。キラ様が巫女から解放されれば、ただの人に戻るのですよ」



「それは…私に玉座と彼女の両方を手に入れろということですか?」

 ラクスに対するときにはついつい慎重になるアスラン。


「ご自由に。でもアスランはキラ様がお好きなのでしょう?そしてキラ様も…おそらく」


「え…っ?」



「わたくし…キラ様のあんなに嬉しそうな笑顔を見たことがありませんもの」

「ラクス…」


「とっても、悔しいですけどね」

「それを言わなければ、あなたはいい人なのに…」

「なぜでしょうね。あなただからでしょうか?」



 ラクスはころころと笑って、屋上を後にした。去り際に、急いでください、と言い残して。





 午後の授業も終わり、キラの部屋に遊びに良くと、彼女は少し不安がっていた。


「今日…昼間にラクスがいてくれなかった…」


「ごめん。心細かった?」



「ラクス…ラクスの髪、地毛なんだって。信じられる?でも、本当にそうで…きれいだよね。あの色が好きで、ずっと一緒にいることが当たり前だったんだ」


「キラは…安心してたんだね」

 ここが潮時と思って、アスランは水を向けた。



「安心……う〜ん、言われてみれば…そんな感じかなぁ」

「それはそうだよ。どうしてキラのデスクの調子が悪いと思う?それはね、この話は絵空事なんかじゃない…俺にとってもキラにとっても事実だからなんだよ」


「アスラン?」



「デスクの調子がおかしいんじゃない。この物語は終わっていないから、キラは書けないんだ」


「アスラン…何言って……」



 もうここで引くわけには行かない。時間が、ない。キラにも言ってしまったから。ラクスに借りたにおい袋をキラに差し出す。

 ほわりと、桜のいい香りがした。





「ラクスに借りたんだ。俺の…王宮の俺の部屋にあるものと同じ香りだ」


 キラは無意識に後じさった。思い出せないだけで、デュランダルに強要されたときの恐怖は彼女の中に残っているらしい。アスランは、確信する。



「大丈夫。キラは…俺が守る。それで、思い出せるはずなんだ」


 目を見張るキラの肩を優しく抱き寄せると、キラが一瞬びくりと震え、そしてほんのり頬を染めた。彼女の前でにおい袋を軽く振ると、すぐにキラの瞳から涙があふれて止まらなくなった。





「僕を…守って、くれる?」


「キラ!」



「もう、怖いのはいやだよ。アスラン…僕を守って……」

 腕の中で、キラのアメジストはアスランの瞳を捉えて離さなかった。彼女は、待っていたのかもしれなかった。



「キラは…俺が、守る!」


「玉座を、やっと…ちゃんと渡せる。ありがとうアスラン」



「キラ!」

 視線を外さないまま、キラはやわらかく微笑んだ。



「帰ろうキラ、俺と一緒に」

「うんっ」





 その日のうちに、ラクスとともにアスランの部屋に3人は集まった。こちらの世界の後始末…つまり記憶とデータの消去は、力の使い方を思い出したキラがすることができる。

 だが、避けては通れない道がここにあった。



「ね…アスラン」

「なんだ?」



「言ってもいい?ツッコんでもいい?」

「ご自由に」





「これって…●こでもドアだよね……?」


「正式名称は、オールワールド・ライヴィング・ドアと言いますのよ」

 世界をつなぐ扉。それってやっぱり「どこで●ドア」だよね………アスランとキラのツッコミは結局声になって現れることはなかった。





 後日。


「玉座の承継って…口移し?」

 アスランの素っ頓狂な声が神殿中に響いた。



「ですから、息子さんには手出し無用と申し上げましたでしょ?」


「え?アスランって、もう奥さんと子供いたんだ…」

「あらごめんなさい。アスランはちゃんと独身で子無しですからね。女癖は悪いですけど」



「よけいなことは言わないでください!俺にはキラだけですよ」


「キラ…アスランは時に下品なので、隠語を使わねばならないときがあるのですよ」

「やめてくださいラクス!」





「でもアスラン…キラを悲しませたら、わたくしが許しませんから」

「ラクス!」


「あなたが暗君であれば致し方ありませんけれど、そうでなければわたくしがいつでもキラをさらってゆきます」


 暗君なら、選んだキラの責任ということになる。そのときには、共倒れだ。





「ラクス…アスランは、きっと大丈夫だよ。なんとなく…そう、思うんだ」


「仕方ありませんわね。ではキラ、アスランに力を」

「うん、判った。ラクス…みんなを下がらせて」





 神殿の中、神の宿る像の前で、キラはゆっくりとアスランに唇を重ねた。キラの中に宿る権力と魔力の全てが、アスランに移ってゆく。

 全てが終わり、キラがただの人となったとき、アスランはがむしゃらにキラを抱きしめた。



「キラは、俺がちゃんと守るから…」

「僕を、悲しませないで」

 キラはもう、震えることも抵抗することもなかった。



「ね、キラ…お願いがあるんだ」

「もう僕にできることは何もないよ」

「俺…キラとの間に子供が欲しい。産んで…くれる?」



「それは…お願いなの?」

「うん。お願い。キラに、強制はしたくないから」





「じゃ…キスして」


「え?」

「大丈夫だよ。力は、逆流したりしないから」



「いや…そういうことじゃ、なくって……いぃの…?」


 キラがうなづくのと、二人の唇が深く重なるのとはほぼ同時だった。





 ちなみにその後、あまりにも時間が経ったことを心配したラクスが乗り込んできて、額に青筋を浮かべつつ、アスランの頭を張り飛ばしたのは言うまでもない。



「そういうことは自室でこっそりとなさい!」


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言い訳v:時事ネタがイッパーイv「ナル●ア国物語」「●こでもドア」「ラ●ブドア」「RPGツク●ル2003」…今しか書けないけど……よく考えたら時間が経つと忘れちゃう(笑)
 あ、でもベクターさんの「RPG●クール」シリーズのダウンロードはお世話になってます。無料でできるゲームがいっぱいあって、微妙に満足!今回のゲームライターなキラの設定もそこから持ってきました。

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