アスランはキラの望むまま、昼過ぎまでずっと側にいてくれた。キラはアスランをぎゅっとつかんだまま離そうとしない。そんな彼女を、愛おしそうにアスランはずっと優しく撫で、好きだと何度もくり返した。 「ねぇアスラン、そう言えばルナマリアさんが変なこと言ってて…」 「何言われたの?」 「僕はいずれこの国を支えていく人だって言ってた。それって、何で?」
遂にこの話題が来たと思った。 いずれはキラに話さなければいけないこと。それが、早いか遅いかの違いだ。アスランはキラにひたすら優しく微笑みながら話しかける。 「本音言っても?」 「聞きたい」 「キラとね、一生一緒でいたいんだ。その…俺も年頃だし、こんな立場だから、周りがうるさくて…でも好きな人じゃないと嫌だって、ずっとわがままを通してきたんだけど………」 「アスラン…?」 「政略結婚に、心なんてないと思ってた。形だけそうなるのが嫌で…ずっと逃げてきた。けど、最初にキラを見たとき、一瞬自分がどうなったか判らなくなったんだ」 あまりのかわいさに、言葉を失って。 我を失いかけて。 条約を結ぶなんて話を、国や臣下を通さずに独断で約束してしまって……。 その日中に連れ帰って、大事に大事に扱った。 キスをすることすら、肌に触れることすらためらわれるほど、大事でたまらなくて。 「……………」 「キラは俺のこと、どう思う?」 「好きだよ。すっごく好き」 「よく考えてキラ。そうやって即答しないで」 「どういう…こと?」 アスランは迷った。キラに真実を伝えるべきか否か。それすら迷った。 だが、しばらくの逡巡のすえ、彼はキラに事実を告げた。 「キラが眠ってしまったっていうあのリンゴに混入されていた毒ってね、強力な惚れ薬だったんだ」 やはりというかキラはびっくりしたような顔だった。だが、あることに気づき逆にアスランに問う。 「だから、ずっと迷ってたの?薬のせいかもしれないって………僕に触れることすら、しないようにして……?」 アスランはキラから目をそらす。 それが事実だと証明するかのように。 「いずれ、判ると思った。キラを…傷つけたくなくて……だから、俺………」 キラを極力見ないように視線を外すアスランは、何か生暖かいものが自分を包む感じに瞬時に覚醒した。 ふと気づくと、キラの顔が自分の目と鼻の先にあって。その自分は仰向けになっていて。 キラに押し倒され、今までにない深さで口づけられているのだと気づくまでに、かなりの時間を要した。 「キラ…っ」 焦りまくるアスランにキラは柔和に微笑む。 「確かに薬のせいかもしれないけど、今僕はアスランが大好きだよ」 また、気まずく長い沈黙が流れる。けれどもアスランはそのままゆっくりとキラの背中に両手を回した。 「キラ…大事にするから。だから、ずっと俺の側にいて?」 「………ぅん…」 すぐに二人はまともに喋ることさえできなくなった。 だが、いったんアスランが部屋を退出すると、キラは冷めてしまう。 「あれ?何でだろ」 なぜ自分はあんなにもアスランのことが好きだと思えるのか?あんな大胆なことができるのか?冷静に考えてひどく不思議だった。 「へたれって、頼りないから好きじゃないって思ってたのにな〜」 不思議な感覚に包まれながら、だんだんと嫌いだとも思えなくなってきていた。 でもってその頃。 アスランは母親から往復びんたを食らっていた。 「今度は大丈夫です。ちゃんとキラに…その、プロポーズを……してきました〜」 「誰がそんなおままごとをしてらっしゃいと言ったの?」 「でも母上、物事には順番というものが……」 「その順番とやらを踏んでお前は、ボケ老人になるのかえ?」 全く容赦のない母親に、息子はたじたじになっていた。 「それまでには…その、俺だってちゃんと………」 「わたくしの言うことが全然理解できていないようですから、もう一度ハッキリと言いますけど!」 ゴクリ…と唾を飲み込む音がやけに響いた。 「わたくしはサッサと彼女とやることやって、一日でも早く孫の顔が見たいと言っているのですよ!どへたれ息子!」 「母上ッ!大きな声で叫ばないでください!恥ずかしいじゃないですか」 「おままごとしかできないような、情けなさ全開バカ息子が何をえらそうに口答えを!」 「はいっ!!」 「お前の仕事は何か!言ってみなさい」 「ち…父上の跡を継いで……このく…」 ぺしん! と、母親は持っていた扇子で息子の頭をはたいた。 「今お前がなすべき重要な仕事は、彼女とのあいだに優秀な嗣子を儲けることです!!!」 ※嗣子…しし、と読みます。男の跡継のこと。 「だからそんなハッキリと、しかも大きな声で叫ばないでください〜〜〜」 「男の子ですからね!男の子ッ!」 「わかってますっ」 「お前のようなへたれは、も〜う懲り懲りですよ!」 「何気な〜く息子をけなさないでください」 「おや、よくお判りだね」 「………………………」 自分はこの母には一生勝てないのだと、アスランは悟った。 母には逆らえないと知ってはいたが、キラとのあいだに子供ができればと思っていたことは事実ではあった。しかし、そうは言っても自分の母のように強引なまねがアスランにできるわけもなく。 実際にキラがお腹に子供を宿したのは二人が結婚してから、さらに1年半が経ってからの話だった。 「アスラン…」 「キラ、大丈夫か?歩くのが辛いなら……」 「まだ大丈夫だよ。2ヶ月で、お腹もほとんど目立たないんだから…」 キラはそう言って笑い飛ばす。 まぁ、いくら強力な惚れ薬とは言っても、影響が残るのはせいぜい1年くらいのもので。今はほとんど影響が出なかった。本当は、ミーアが毒薬と間違って入れた薬だったが、禍転じて福となってしまったようだ。 「でも…」 「大丈夫だよ。だってここには僕とアスランの子供がいるんだよ?きっと優しくてちょっと商魂たくましい子供が生まれてくるよ」 「商魂…?」 「アスラン?アスランにとって世の中は愛だけかも知れないけど、お金だって大事だよ?」 「キ〜ラ〜っ」 「ぅふふっ。半分冗談v」 半分冗談?などと思いながら本気にしなかったら、本当に優しいが商魂たくましい長男が生まれてきた。 それに、一番大喜びしたのは皇后だった。 中編インデックスへ戻る→ 駄文トップへ戻っちゃう→ *kiminohitominonakaniorehaimasuka**kiminohitominonakaniorehaimasuka**kiminohitominonakaniorehaimasuka* 言い訳v:ハァ〜、ポストラクスが出てくると、話がサクサク進みます。楽ちん楽ちんvところでキラは、「お金だけが大事」とは言ってません決して!秋山は以前、そういう人に苦労した苦い経験があります。 本当は、デュランダルとミーアのその後も頭にあったのですが、キリがいいのでここで終わりました。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました! |
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